書評

『日米安保を考え直す』(講談社)

  • 2023/06/28
日米安保を考え直す / 我部 政明
日米安保を考え直す
  • 著者:我部 政明
  • 出版社:講談社
  • 装丁:新書(206ページ)
  • ISBN-10:4061496085
  • ISBN-13:978-4061496088
内容紹介:
偏在する米軍基地、地位協定、核と密約、主体なき日本外交。日本とアメリカ、本土と沖縄の二つの軸から、安保を「非対称」の問題として問い直す。

まずアメリカの利益ありき

「備えあれば憂いなし」なんてことを真顔で言われると、「あんたの備えが、憂いのもとなんだよ」とツッコミたくなる。いや、冗談ではなく、備えはすなわち危険な火種となる。沖縄に生まれ、琉球大学で教える我部(がべ)政明の『日米安保を考え直す』を読みながら、それを痛感した。

小泉純一郎は冒頭の発言を「政治の要諦」であるとし、「古今東西、どの国も変わらない」と言う(ALLREVIEWS事務局注:本書評執筆年は2022年)。彼は「当たり前」や「常識」といった言葉をよく使う。しかし、日本は当たり前や常識が当てはまる国ではない。言うまでもなくそれは憲法第九条によって軍備を自ら禁じていることを指すのではなく、国土のあちこちに米軍基地がある状態、地位協定だの「思いやり予算」だのによって米軍の利益ばかりが強く守られている状態による。フツーじゃない国が、フツーの国並みに(と小泉は思っているのだろう)備えを、というところからして間違っている。

我部は「非対称性」や「バランス・シート」といったキーワードを使いながら、日米安保の問題をえぐっていく。見えてくるのは、対等ではない日米関係だ。在日米軍は日本を守らない。日本を守ってやる、と見せかけて、じつはアメリカの安全保障のためでしかない。しかもアメリカにとっては、「思いやり予算」その他によって日本の基地は安上がりだ。そして日本政府はその犠牲の多くを沖縄に強いてきた。

梅林宏道の『在日米軍』(岩波新書)も同様のテーマを扱っているが、こちらは米軍基地に焦点を絞り、具体的なデータが豊富だ。二冊を読んではっきりしてくるのは、日本政府の主体性のなさ、方針のなさである。なんでもかんでもまずアメリカの利益ありき。まあ、これは防衛問題に限ったことではないけれども。

小泉純一郎に言っておく。有事法制なんて持ち出す前に、やることはいっぱいあるだろう。そんなものは、日米安保と在日米軍について、きっちりケジメをつけてからにしろ。(講談社現代新書)
日米安保を考え直す / 我部 政明
日米安保を考え直す
  • 著者:我部 政明
  • 出版社:講談社
  • 装丁:新書(206ページ)
  • ISBN-10:4061496085
  • ISBN-13:978-4061496088
内容紹介:
偏在する米軍基地、地位協定、核と密約、主体なき日本外交。日本とアメリカ、本土と沖縄の二つの軸から、安保を「非対称」の問題として問い直す。

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初出メディア

週刊朝日

週刊朝日 2002年6月21日

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