書評

『江戸の判じ絵 これを判じてごろうじろ』(小学館)

  • 2022/06/26
江戸の判じ絵 これを判じてごろうじろ / 岩崎 均史
江戸の判じ絵 これを判じてごろうじろ
  • 著者:岩崎 均史
  • 出版社:小学館
  • 装丁:大型本(143ページ)
  • 発売日:2003-12-12
  • ISBN-10:4096261319
  • ISBN-13:978-4096261316
内容紹介:
目で見るなぞなぞ!? 江戸時代の庶民との知恵くらべ。 江戸時代を通じて庶民の知的娯楽のひとつだった判じ絵。これは言葉を絵に置き換え、しかもその絵とは全く無関係で「音(オン)」だけが… もっと読む
目で見るなぞなぞ!? 江戸時代の庶民との知恵くらべ。

江戸時代を通じて庶民の知的娯楽のひとつだった判じ絵。これは言葉を絵に置き換え、しかもその絵とは全く無関係で「音(オン)」だけが共通しているという仕掛け、つまり目で見るなぞなぞといえるもの。本書は、幕末以降に大量に刊行された「もの尽くし判じ物」を中心に、見て読んで、解読に挑戦する構成。判じ絵の成り立ちやポイントをやさしく解説し、入門編から徐々にグレードアップします。東海道や暦、干支の入門編、国尽くしや江戸名所の初級編、勝手道具などから江戸庶民の暮らしがわかる中級編、歴史や文化の知識が必要な上級編、そして長文まで。謎染めや美人見立て図など充実したコラムも満載。現代にも通じる判じ絵の数々、江戸時代の庶民たちとの知恵くらべです。

はてな? そうか、なるほど 面白い

もう月が変わったけど、お正月は一家で絵双六(すごろく)や福笑いをたのしみましたか。お正月遊びは字を知らなくても絵ばかりなので、大人も子供も一緒に遊べますね。そうだ、こんなとき判じ絵があれば、もっとたのしかったのに。

一枚の刷りものにへんてこな絵がいっぱい散らしてある。「あ」の字の男が「さ」の字の屁(へ)をして臭いと鼻をつまんでいる人がいるから「あ・さ・くさ=浅草」。本の顔の人が鵜(う)の顔の人と碁を打っているのは「ほん・ご・う=本郷」。蝦蟇(がま)がデンと腰を据えてお茶を点(た)てている。何かと思えば「茶釜(ちゃがま)」だって。お相撲さんばかりの判じ絵、草花の、虫の、道具の、音楽(清元、常磐津<ときわず>)の判じものまである。

象が門をくぐりかけて半分で詰まってしまった。それで半蔵(象)門。これは字が読めない人のための実用的な判じ絵地図。お百姓さんのためには「南部絵暦」。判じ絵で季節の交代が早わかりしてそのまま農暦になる。信心深い人には法華経を絵解きした「絵文字経」。本書にはそんな面白い判じ絵をどっさり集めて謎ときとしてある。

判じ絵は子供や江戸庶民が気軽に遊んだ他愛(たわい)のない絵遊びにはちがいないが、裏には江戸人の地口(じぐち)好き、洒落(しゃれ)好きの言語活動が、猛烈に回転している。いわば(駄)洒落ずくめの江戸裏文学だ。だから山東京伝が判じ絵応用の小紋デザインを考案したり、十返舎一九が影絵ずくめの絵本『於都里綺(おつりき)』を出版したりした。

近代の活字活版文化の受容以後、全頁(ページ)活字の味気ない出版物ばかりが本らしい本と見なされてきた。しかし活字専一のそんな「知」のメディアは、判じ絵のような「無知の知」のそれに受太刀(うけだち)になりはじめてはいないか。ルイス・キャロルが絵文字ずくめのレターをアリスちゃんに書き送ったのは十九世紀末の話。今時のアナログおじさんは仲良しの小学生の絵文字・顔文字ずくめのメールにてこずっている。ハテな、と首をかしげ、ようやく夕方に「あッそうか」。するとその日のお酒がめっぽううまい。うれしいじゃありませんか。
江戸の判じ絵 これを判じてごろうじろ / 岩崎 均史
江戸の判じ絵 これを判じてごろうじろ
  • 著者:岩崎 均史
  • 出版社:小学館
  • 装丁:大型本(143ページ)
  • 発売日:2003-12-12
  • ISBN-10:4096261319
  • ISBN-13:978-4096261316
内容紹介:
目で見るなぞなぞ!? 江戸時代の庶民との知恵くらべ。 江戸時代を通じて庶民の知的娯楽のひとつだった判じ絵。これは言葉を絵に置き換え、しかもその絵とは全く無関係で「音(オン)」だけが… もっと読む
目で見るなぞなぞ!? 江戸時代の庶民との知恵くらべ。

江戸時代を通じて庶民の知的娯楽のひとつだった判じ絵。これは言葉を絵に置き換え、しかもその絵とは全く無関係で「音(オン)」だけが共通しているという仕掛け、つまり目で見るなぞなぞといえるもの。本書は、幕末以降に大量に刊行された「もの尽くし判じ物」を中心に、見て読んで、解読に挑戦する構成。判じ絵の成り立ちやポイントをやさしく解説し、入門編から徐々にグレードアップします。東海道や暦、干支の入門編、国尽くしや江戸名所の初級編、勝手道具などから江戸庶民の暮らしがわかる中級編、歴史や文化の知識が必要な上級編、そして長文まで。謎染めや美人見立て図など充実したコラムも満載。現代にも通じる判じ絵の数々、江戸時代の庶民たちとの知恵くらべです。

ALL REVIEWS経由で書籍を購入いただきますと、書評家に書籍購入価格の0.7~5.6%が還元されます。

初出メディア

朝日新聞

朝日新聞 2004年2月15日

朝日新聞デジタルは朝日新聞のニュースサイトです。政治、経済、社会、国際、スポーツ、カルチャー、サイエンスなどの速報ニュースに加え、教育、医療、環境、ファッション、車などの話題や写真も。2012年にアサヒ・コムからブランド名を変更しました。

  • 週に1度お届けする書評ダイジェスト!
  • 「新しい書評のあり方」を探すALL REVIEWSのファンクラブ
関連記事
種村 季弘の書評/解説/選評
ページトップへ