書評

『「宇宙戦艦ヤマト」をつくった男 西崎義展の狂気』(講談社)

  • 2020/01/27
「宇宙戦艦ヤマト」をつくった男 西崎義展の狂気 / 牧村 康正,山田 哲久
「宇宙戦艦ヤマト」をつくった男 西崎義展の狂気
  • 著者:牧村 康正,山田 哲久
  • 出版社:講談社
  • 装丁:文庫(448ページ)
  • 発売日:2017-12-22
  • ISBN-10:4062817373
  • ISBN-13:978-4062817370
内容紹介:
日本アニメの金字塔「宇宙戦艦ヤマト」誕生から40年、 事故死後7年を経て明らかにされるカリスマ・プロデューサーの破天荒な一生

石原慎太郎、角川春樹、そしてこの男。戦艦大和に魅せられた誇大妄想狂の壮絶人生

誇大妄想狂はみんな戦艦大和が好きである。日本がかつて生みだした最大の戦艦、その46cm砲があまりにも象徴的で男根的だからなのか、石原慎太郎も角川春樹も大和が好きだった。そしてもちろん西崎義展がいる。この男根主義的プロデューサーは、『宇宙戦艦ヤマト』(74年放送開始)を大ヒットさせて日本のアニメの歴史を変えたが、同時にそんなことは忘れさせるくらい悪評につぐ悪評を積み重ねもした。ヤマトの続篇ではくりかえす死と復活でアニメそのものを安っぽくし、覚醒剤と武器密輸容疑で世間を震撼させ、松本零士との著作権をめぐる争いでさらにいかがわしさを増した。2010年11月7日、西崎は自前のクルーザーで航行中、事故で海に落ちて死亡した。享年75。

西崎義展がいかがわしい山師であったことはまちがいない。そして『宇宙戦艦ヤマト』に歴史的なもの以外の意義があるわけでもない。ぼくはまさに初代『ヤマト』直撃世代に当たるのだが、当時から『ヤマト』のことは幼稚だと思っていた。なんで宇宙戦艦なのに戦艦大和のかっこうをしてるんだ! みたいなあまりに基本的な突っ込みが頭からはなれず、星雲賞が贈られたのも冗談としか思えなかった。ニューウェーブSF少年だった自分には、あんなアナクロニズムは許せなかったのである。

だがそうした評価をさしおいたとしても――いやそうした評価があればこそ――西崎の人生はきわめて興味深いものである。本書は西崎義展のはじめての本格的評伝である。『ヤマト』や上記のゴタゴタにかんするいきさつはすべて記されているし、それ以上のヤバイ話やゴシップもてんこ盛りだ。著者は西崎のアシスタント・プロデューサーと竹書房の元社長で裏社会の取材にも強いフリーライターという組み合わせ。まさに怖いモノなしですべてが暴かれてしまう。

そもそも西崎義展は口八丁手八丁の山師でこそあれ、アニメにはまったくの素人だった。その彼がTVアニメを企画して実現することができたのは手塚治虫の虫プロにかかわったからである。『海のトリトン』のアニメ化にたずさわった西崎だが、手塚からうまいこと権利を「ひっぺがし」、アニメを自分のものにしてしまう。その件で手塚からは疎んじられる(そして富野由悠季をはじめとする手塚の信奉者からは蛇蝎のごとくに嫌われる)のだが、虫プロ崩壊後にはそこの人材をも取りこんでアニメ作りに乗りだす。西崎が作った『ワンサくん』(73年)は三和銀行のマスコットキャラとして西崎が銀行に売り込んだものであり、音楽にこだわりがあった西崎は全編ミュージカルとして製作する。ちなみに西崎の強引な値上げ交渉にうんざりした三和銀行は、ワンサくんのキャラクターを破棄して同じ犬であるスヌーピーを使うことになる、というおまけがつく。

それより以前、音楽畑だったという西崎は何をしていたのか? 実は西崎は創価学会の関連会社である民音に食い込み、歌謡ショーなどを売りこんで荒稼ぎした敏腕プロモーターだったのである。創価学会との密接な関係、のちに学会相手に脅迫事件を起こす弁護士山崎正友のことなど、あまり出ない話が赤裸々に記されている。最終的に西崎は不渡りを出して海外逃亡する。だが、こんなバケモノどもと渡り合っていた西崎ならばアニメ界を牛耳るなど赤子の手をひねるがごときにたやすいことだったろう。

西崎は派手好きで、大盤振る舞いをするようでいながら、店ではやたら値切り倒すケチくささを併せ持っていた。安彦良和が入院したときには分厚い見舞金入りの封筒を押しつける。これみよがしの金の使い方をするのだが、本当の金持ちの鷹揚さはない。その頂点がJAVN(ジャパン・オーディオ・ヴィジュアル・ネットワーク)設立後、カンヌ映画祭に乗りこむ話だろう。西崎はイタリアで特注した新造クルーザーにドンペリを300本積んでカンヌ映画祭に乗りつけ、連日のパーティをもよおした。だが『ヤマト』も本田美奈子主演の『パッセンジャー 過ぎ去りし日々』(87年)も海外に売る役には立たず、成果としてはシャロン・ストーンに「変なエロじじいがいて、すごく嫌な思いをした」と言わしめたことくらいだったという。

派手な愛人事情や田中角栄に会いに行く話などゴシッピーな部分のおもしろさはさすがに暗部を知っているアシスタントである。いっぽうで著者たちが映画やアニメの専門家ではないせいで作品から西崎義展を論じることができないのは残念なことである。そちらの話もあれば、もっと膨らむ本になったろう。それにしてもこれだけの人が登場するのだから、人名索引だけでもつけてくれるともう少し読みやすかったのだが。
「宇宙戦艦ヤマト」をつくった男 西崎義展の狂気 / 牧村 康正,山田 哲久
「宇宙戦艦ヤマト」をつくった男 西崎義展の狂気
  • 著者:牧村 康正,山田 哲久
  • 出版社:講談社
  • 装丁:文庫(448ページ)
  • 発売日:2017-12-22
  • ISBN-10:4062817373
  • ISBN-13:978-4062817370
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日本アニメの金字塔「宇宙戦艦ヤマト」誕生から40年、 事故死後7年を経て明らかにされるカリスマ・プロデューサーの破天荒な一生

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映画秘宝 2015年11月号

95年に町山智浩が創刊。娯楽映画に的を絞ったマニア向け映画雑誌。「柳下毅一郎の新刊レビュー」連載中。洋泉社より1,000円+税にて毎月21日発売。Twitter:@eigahiho

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