書評

『天下人の時代』(吉川弘文館)

  • 2020/02/25
天下人の時代 / 藤井 讓治
天下人の時代
  • 著者:藤井 讓治
  • 出版社:吉川弘文館
  • 装丁:単行本(266ページ)
  • 発売日:2011-10-28
  • ISBN-10:464206429X
  • ISBN-13:978-4642064293
内容紹介:
戦国乱世を平らげ、近世への扉を開いた信長・秀吉・家康ら「天下人」の時代を、政治の動きを中心に描く。惣無事令の否定、徳川家の代替わりなど、発見された新事実を交え、東アジア情勢も絡めつつ活写。近世の始まりに迫る。

近世政治史の新たな地平

「江戸時代の政治史はこんなに遅れているのか」。あとがきはやや衝撃的な独白から始まる。

織豊政権から江戸時代にかけて、日本列島は大きく様変わりする。覇王にも見まごう実力者のもと、ひとつの武家権力体にまとめられゆき、「近世」なる何かが華々しく展開する。かえりみて、現在の私たちの「文明としての原像」は、ほとんど「近世」において創られたといってもいいすぎでない。

このまことに魅力的な時代――。その代表的な歴史家である著者は、剛直なものいいの人としても知られる。「近世の政治史理解の貧弱さに驚くことがある」といい、その理解のほどは「高校の教科書レベルである」と切って捨て、しかしそうした考え方が「いかに力を持っているか思い知らされた」と吐露する。率直すぎるほどの述懐は、まことに小気味よく、かつは次なる地平への強い意欲をにじませる。

近著『天皇と天下人』(講談社)とともにあいまって「日本近世」を真正面から問い直す。キーワードは天下人。著者の豪毅(ごうき)な筆のゆえか、信長・秀吉・家康・秀忠の時代が生き生きと躍動する。これに対し、正親町(おおぎまち)・後陽成(ごようぜい)・後水尾(ごみずのお)らの天皇と朝廷はどう向かいあったのか。今まで大名から見ていた時代を天皇から見ようとする、野心的な試みだ。

飛鳥・奈良や、繊細優美な王朝絵巻も悪くはないが、所詮(しょせん)は日本史の"華"はこの時にある。時代史の"幹″となるのは政治史。地球世界史のファーストステージとして、ポルトガル・イスパニアの船が来航し、キリスト教が伝えられ、朝鮮出兵という嵐が巻き起こり、明清交代という東アジア規模の渦が日本にも波及する。

ここにおいて、政治史の重視は必然である。天下人たちは国内のみならず、変動するアジア・世界をどう眺め、日本をどう構想したか。焦点はそこにこそある。

[書き手] 杉山 正明(すぎやま まさあき・ユーラシア史家、京都大学教授)
天下人の時代 / 藤井 讓治
天下人の時代
  • 著者:藤井 讓治
  • 出版社:吉川弘文館
  • 装丁:単行本(266ページ)
  • 発売日:2011-10-28
  • ISBN-10:464206429X
  • ISBN-13:978-4642064293
内容紹介:
戦国乱世を平らげ、近世への扉を開いた信長・秀吉・家康ら「天下人」の時代を、政治の動きを中心に描く。惣無事令の否定、徳川家の代替わりなど、発見された新事実を交え、東アジア情勢も絡めつつ活写。近世の始まりに迫る。

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初出メディア

読売新聞

読売新聞 2012年1月22日

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