選評
『泥人魚』(新潮社)
読売文学賞(第55回)
受賞作=小川洋子「博士の愛した数式」(小説賞)、唐十郎「泥人魚」(戯曲・シナリオ賞)、若島正「乱視読者の英米短篇講義」(随筆・紀行賞)、沼野充義「ユートピア文学論」(評論・伝記賞)、栗木京子「歌集『夏のうしろ』」(詩歌俳句賞)、谷沢永一「文豪たちの大喧嘩」(研究・翻訳賞)/他の選考委員=大岡信、岡野弘彦、川村二郎、川本三郎、菅野昭正、河野多惠子、津島佑子、富岡多惠子、丸谷才一、山崎正和/主催=読売新聞社/発表=同紙二〇〇四年二月一日舞台の魔術師 集大成 「泥人魚」について
天草の一揆と特攻隊の人間魚雷と浦上天主堂上空の原爆炸裂(さくれつ)と諫早湾の干拓を一気に吹き寄せ、それらをすばやく捩曲げ切り刻み、その上で一切を鮮やかに繋ぎ合わせて、だれも見たことのない演劇的時空間を創り出す。トタン板を打楽器から詩人のための鏡に変え、さらに海を切断するシャッターに変形させる。湯タンポを人間魚雷に見立てると、実際にそれは人間魚雷としか見えなくなる。ウドンの紐とゴム長靴は電話線になり、すぐさま両性の性器に成り代わる。いつもみごとな唐魔術である。そして「生きている証しの、人生色のウンコ」といったような、独特の詩情と叙情とユーモア。これは、すぐれた劇詩人で、かつ舞台の魔術師の唐十郎の集大成である。【この選評が収録されている書籍】
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