書評
『大岡昇平の時代』(河出書房新社)
「昭和の作家」を冷静に語る
大岡昇平は「昭和の作家」だったと、著者は語る。戦後派という括り方には馴染めない、と。ただし、親交のあった大岡を冷静に語る筆致は見事だ。感情に流されていない。『俘虜記』に始まり、『昭和末』で終わる構成もそうだが、オーソドックスな評伝のスタイルをとっている。作品に寄り添いながら、テキストだけではなく、大岡の人となりも浮かび上がるような書き方だ。
大作『レイテ戦記』で、大岡は軍人のエゴイズムを見透かしている。日本が「軍国主義への傾斜」によって味付けされていると批判する。生きていれば、大岡はおそらく今のこの時代に震えているに違いない。是非にも顧みられるべき作家。
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