書評
『甲信越の名城を歩く 新潟編』(吉川弘文館)
郷土の歴史散歩 ぜひ携えて
「城山」「天空の城」「真田丸」。城にまつわる言葉は、私たちの身近にある。本書は、新潟県内に所在する59の中世城館跡を、本県の気鋭の研究者、伊藤啓雄、田中聡、鳴海忠夫、福原圭一、前嶋敏、水澤幸一の各氏が分担執筆して紹介するガイドブックである。
構成は、編者の福原氏による「越後の城と地方在番制-『越後国郡絵図』を読み解く」、水澤氏による「新潟県の発掘された城を探る」の総説2編を巻頭に、上越(12城)、中越(24城)、下越(20城)、佐渡(3城)の城館跡を一つ一つ項目立てし、「お城アラカルト」と題されたコラム4編を配す。
各項には、所在地、比高、分類、年代、城主、交通アクセスといった基本情報が掲載され、実測図や空撮写真なども豊富である。最新の発掘成果や文献史料の読み解きによって、名城をわかりやすく解説している。
例えば、各項に付されたキャッチコピーからは、「上杉謙信旗揚げの城」(長岡市・栃尾城)、「上杉景虎が最期を迎えた山城」(妙高市・鮫ケ尾城)、「水堀に囲まれた『村殿』の居館跡」(佐渡市・青木城)といった城主にまつわる歴史を知ることができる。
また、「信越境目」(糸魚川市・根知城)、「海賊の城」(柏崎市・籏持城)、「水上交通の要衝」(長岡市・蔵王堂城)、「関越境目」(湯沢町・荒戸城)など、山野河海に囲まれた本県らしく、中世城館が街道・海道や河川交通と深く関わる場所に立地していることにも気付かされる。
そして、「越後唯一丸馬出を構えた館城」(十日町市・琵琶懸城)という評価や、上杉景勝・直江兼続と対峙(たいじ)した「新発田重家終焉(しゅうえん)の地」(新発田市・浦城)の比定など、全国的な戦国期城郭史研究の成果をふまえた知見が随所に示される。
県内には約1160の中世城館跡があるという。その多くが、豊臣・徳川政権下で軍事施設としての機能を停止する。
しかし、中世城館の記憶は、地中に埋蔵され、村の記録や編纂(へんさん)物に「古城」などと記されることで、現代に伝えられた。
江上館(胎内市)や春日山城(上越市)などの名城は、史跡公園として整備され、今は市民の憩いの場になっている。
身近な名城を訪ねて、景観を眺め、往時に思いをめぐらす。ぜひ本書を携えて、土地に刻まれた郷土の歴史を体感してほしい。
[書き手] 田中 洋史(たなか ひろし)長岡市立中央図書館文書資料室長
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