書評
『ビッグ・ボウの殺人』(早川書房)
密室トリック及びもうひとつの大トリック(これは書けない)をいち早く使用した古典として、ミステリ史にその名を記す作品。しかし、こうしたトリックは今日の目で見ると古めかしいから、読者は別の読み方をしたほうがいい。十九世紀末のロンドン、社会運動家が殺され、労働運動の闘士が逮捕される事件を描いたこの小説は、ヴィクトリア朝のイギリス労働者階級とそこに巻き起こった労働運動の嵐をテーマにした熱気に満ちた社会小説なのである。作者イズレイル・ザングウィルはイギリスのユダヤ系作家。日本では知られていないが、「アメリカは人種のるつぼ」という言葉は、実はこの作者の戯曲がもとで生まれたのである。
【この書評が収録されている書籍】
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