書評
『フォト・ストーリー エリザベス二世:女王陛下と英国王室の歴史』(原書房)
英国女王エリザベス2世は波乱万丈の人生を送ってきました。父である国王ジョージ6世の死、フィリップ殿下との出会い、25歳での女王即位、公務と外交、王室のロマンス、ダイアナの死、新しい世代まで、女王とウィンザー朝の歩みを王室文書館所蔵の写真や資料でたどります。
政界実力者との確執、20世紀後半を彩る歴史的事件の影で女王はいかにして激動の時代を駆け抜け、家族や国民の愛を勝ち取ってきたのか。エリザベス2世、生誕95年企画、ヴィジュアル決定版ともいえる本書から「序文」を特別公開します。
だがこうした式典や行事、スピーチやテレビ放送の前に、その裏で行われている仕事のことは私たちにはまったく見えていない。王室を支えるために必要な仕事は多数あり、そこで大勢の職員が働いているのは他のさまざまな事業と同じだ。
だが一般的な事業と異なるのは、スタッフの主要な仕事が自社の製品やサービスを売ることではなく、それよりもはるかに複雑な役割をこなす点だ。彼らはひとつの決まった部署で仕事をしているのではない。彼らはまさに多国籍事業を展開しているのであって、それは世界という市場を相手に自国およびイギリス王室のイメージや「ブランド」を守るのにくわえ、政治や外交が複雑に絡み合ったものを考慮して行わなければならない。彼らの仕事は、女王をCEOとして戴き、連合王国および英連邦に最大の利益をもたらして、さらにそれを向上させることにあるのだ。
そのためにもロイヤル・ファミリーは王室という制度を守り維持しなければならないが、それは簡単なことではなかった。現王室のウィンザー朝は、王室存続のために、第1次世界大戦中に改称して誕生した王朝だ。それ以降も、王室の安定的な維持はいく度も危機にさらされてきた。それでもウィンザー朝が今日まで存続してこられたのは、成年王族がみな、社会に貢献する懸命な活動を続けてきたおかげだ。王室の人々が、国際的な舞台で活躍するだけではなく、国内でも、連合王国全土の人々に寄り添う活動を続けた成果なのである。
スコットランド、エアシャーのカムノック付近に位置する、貴族の邸宅だったダンフリーズ・ハウスはそれがよくわかる例だろう。ダンフリーズ・ハウスは売却され、屋敷内の非常に価値のある美術品や調度品は競売にかけられることになっていた。チャールズ皇太子は国のためにそうした品々を救うべきだと判断し、それに必要な莫大な資金を集めるために根気強く活動した。自身のチャリティ財団を介して2000万ポンドの融資を行うことまでしている。ぎりぎりのタイミングで、皇太子はようやく購入契約にこぎつけた。チッペンデール様式の調度品をまとめた最初の荷は、すでにオークション・ルーム行きのトラックに積み込まれていたのだ。ダンフリーズ・ハウスは大規模な改修を行い、現在では観光客を大勢ひきつけ、文化や教育の中心となって、「文化遺産が主導する地域再生計画」として地域に雇用を生んでいる。これは政府主導で行われたものではない。皇太子が先頭に立った計画だった。
王室のメンバーは、大きな責任感を備えていなければやり遂げることができない難事に直面することもしばしばだ。ニューヨークの世界貿易センターへのテロ攻撃や、マンチェスター・アリーナの爆発物事件やロンドンのグレンフェル・タワーの火災が起きたあと、女王は生存者や犠牲者の家族に言葉をかけた。こうした事件が、女王にとって精神的に大きな負担となったことは間違いない。だが、女王が被害者たちにわずかでも癒しを与えることができるとしたら、それがその人たちに、ほかの人たちもあなたたちの苦しみを理解し、それを分かち合っていると知らせるだけのことであっても、それは女王にとってなすべき重要な仕事なのだ。
第2次世界大戦中には女王の両親もそうだった。国王夫妻はロンドンはじめドイツ軍の爆撃で破壊された街に足を運び、人々の心を癒す言葉をかけた。そして今、女王とその家族も、それと同じ役割を担うことを自らの責務とみなしている。
もちろん、ロイヤル・ファミリーの明るく楽しい一面が垣間見えることもある。形式が重んじられる場合には、女王はごく真剣に、真面目な態度で臨まなければならないだろうが、ふだんの女王はとてもユーモアの感覚にすぐれている。女王はヘンリー王子とバラク・オバマ、ミシェル・オバマ夫妻と一緒に、傷病兵らの国際スポーツイベントである「インヴィクタス・ゲーム」周知のためにビデオを製作した。これを観たことがないなら、インターネット上で公開されているのでぜひのぞいてみて欲しい。
王室のメンバーは大いなる特権をもって生活しているかもしれないが、それだけではない。現王室において、女王と夫であるフィリップ殿下は、王室の次の世代のなかに強い義務感を育むことに心をくだいてきた。そして女王の子どもたちや孫たち、曾孫たちは、創設100年を超えたウィンザー朝を次の100年、さらにその先へとつないでいくことに備えつつあるのだ。
[書き手]ロッド・グリーン(著者)
政界実力者との確執、20世紀後半を彩る歴史的事件の影で女王はいかにして激動の時代を駆け抜け、家族や国民の愛を勝ち取ってきたのか。エリザベス2世、生誕95年企画、ヴィジュアル決定版ともいえる本書から「序文」を特別公開します。
ロイヤル・ウェディングから王室の将来まで
私たちが目にする王室の人々と言えば、多くは、式典に列席するさいの姿だ。橋や公的施設のオープンを祝うリボン・カットに出かけるときには、警察や騎馬隊が護衛する車や馬車から、女王やその家族が笑顔で手を振りながら通りを行く。あるいは王室の結婚式や女王の誕生日を祝う軍旗敬礼分列式など、国のきらびやかな公式行事にロイヤル・ファミリーは出席する。さらにテレビを通じて、私たちは王室のさまざまなメンバーを目にする。王室の人々がビジネス界のリーダーたちの昼食会や慈善活動でスピーチをする機会は多く、また女王はイギリス議会の開会式で全議員を前に「女王演説」を述べ、クリスマスには少々くつろいだ姿で、テレビを通じクリスマス・メッセージを発する。だがこうした式典や行事、スピーチやテレビ放送の前に、その裏で行われている仕事のことは私たちにはまったく見えていない。王室を支えるために必要な仕事は多数あり、そこで大勢の職員が働いているのは他のさまざまな事業と同じだ。
だが一般的な事業と異なるのは、スタッフの主要な仕事が自社の製品やサービスを売ることではなく、それよりもはるかに複雑な役割をこなす点だ。彼らはひとつの決まった部署で仕事をしているのではない。彼らはまさに多国籍事業を展開しているのであって、それは世界という市場を相手に自国およびイギリス王室のイメージや「ブランド」を守るのにくわえ、政治や外交が複雑に絡み合ったものを考慮して行わなければならない。彼らの仕事は、女王をCEOとして戴き、連合王国および英連邦に最大の利益をもたらして、さらにそれを向上させることにあるのだ。
王族の社会貢献
そのためにもロイヤル・ファミリーは王室という制度を守り維持しなければならないが、それは簡単なことではなかった。現王室のウィンザー朝は、王室存続のために、第1次世界大戦中に改称して誕生した王朝だ。それ以降も、王室の安定的な維持はいく度も危機にさらされてきた。それでもウィンザー朝が今日まで存続してこられたのは、成年王族がみな、社会に貢献する懸命な活動を続けてきたおかげだ。王室の人々が、国際的な舞台で活躍するだけではなく、国内でも、連合王国全土の人々に寄り添う活動を続けた成果なのである。
スコットランド、エアシャーのカムノック付近に位置する、貴族の邸宅だったダンフリーズ・ハウスはそれがよくわかる例だろう。ダンフリーズ・ハウスは売却され、屋敷内の非常に価値のある美術品や調度品は競売にかけられることになっていた。チャールズ皇太子は国のためにそうした品々を救うべきだと判断し、それに必要な莫大な資金を集めるために根気強く活動した。自身のチャリティ財団を介して2000万ポンドの融資を行うことまでしている。ぎりぎりのタイミングで、皇太子はようやく購入契約にこぎつけた。チッペンデール様式の調度品をまとめた最初の荷は、すでにオークション・ルーム行きのトラックに積み込まれていたのだ。ダンフリーズ・ハウスは大規模な改修を行い、現在では観光客を大勢ひきつけ、文化や教育の中心となって、「文化遺産が主導する地域再生計画」として地域に雇用を生んでいる。これは政府主導で行われたものではない。皇太子が先頭に立った計画だった。
王室のメンバーは、大きな責任感を備えていなければやり遂げることができない難事に直面することもしばしばだ。ニューヨークの世界貿易センターへのテロ攻撃や、マンチェスター・アリーナの爆発物事件やロンドンのグレンフェル・タワーの火災が起きたあと、女王は生存者や犠牲者の家族に言葉をかけた。こうした事件が、女王にとって精神的に大きな負担となったことは間違いない。だが、女王が被害者たちにわずかでも癒しを与えることができるとしたら、それがその人たちに、ほかの人たちもあなたたちの苦しみを理解し、それを分かち合っていると知らせるだけのことであっても、それは女王にとってなすべき重要な仕事なのだ。
第2次世界大戦中には女王の両親もそうだった。国王夫妻はロンドンはじめドイツ軍の爆撃で破壊された街に足を運び、人々の心を癒す言葉をかけた。そして今、女王とその家族も、それと同じ役割を担うことを自らの責務とみなしている。
もちろん、ロイヤル・ファミリーの明るく楽しい一面が垣間見えることもある。形式が重んじられる場合には、女王はごく真剣に、真面目な態度で臨まなければならないだろうが、ふだんの女王はとてもユーモアの感覚にすぐれている。女王はヘンリー王子とバラク・オバマ、ミシェル・オバマ夫妻と一緒に、傷病兵らの国際スポーツイベントである「インヴィクタス・ゲーム」周知のためにビデオを製作した。これを観たことがないなら、インターネット上で公開されているのでぜひのぞいてみて欲しい。
王室のメンバーは大いなる特権をもって生活しているかもしれないが、それだけではない。現王室において、女王と夫であるフィリップ殿下は、王室の次の世代のなかに強い義務感を育むことに心をくだいてきた。そして女王の子どもたちや孫たち、曾孫たちは、創設100年を超えたウィンザー朝を次の100年、さらにその先へとつないでいくことに備えつつあるのだ。
[書き手]ロッド・グリーン(著者)
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