住宅建築について考える教科書
むろん私は建築家ではないし、また建築を大学で専攻したわけでもない。しかし、今までに、自宅を三度建て替え、別荘を二軒建て、オフィスに使っているマンションのリノベーションと、現在進行中の老父の家のリノベーション、都合七回もの家普請に関わってきた。また、イギリスでも、12世紀建築の領主館、19世紀末のテラスハウスとコートハウス、20世紀初頭の一戸建て、1960年代のマンション、と多様な住居経験を持ってきた。
で、『思いどおりの家を造る』という本を書き、『思想する住宅』という本も書いている関係から、いわば敵情視察とでもいうような気持ちで、この本を読んでみた。
豊富な図版と共に多様な住宅コンセプトの展覧会となっている点で、この本はとても面白い。具体的な一つ一つの家となると、賛成できるのもあり、こんな家はご免だなあ、というのもあって、この本自体が、住宅建築についての一種の混とんとした模索の現状を垣間見せる。
けれども、なかで、編者の一人難波和彦さんが、日本の住宅が、これからスクラップ&ビルドの既往に再考を加えて、リノベーションの可能性を展開すべきこと、そのために、「建物の熟成と風化の見直し」ということを提唱しているのは、おおいに同感し、また力づけられた。私も、かねてから日本人の間に自明のこととしてある土地神話と、家の耐用年数という思考法に大きな「?」を投げ掛けてきたからである。
その意味で、今日本の建築家が、奇矯な大建築ばかりでなく、現実的な住宅に目を向けて、それをどう考えようとしているのかを知る、これはよい教科書となっている。