書評

『イメージ・ファクトリー―日本×流行×文化』(青土社)

  • 2023/08/13
イメージ・ファクトリー―日本×流行×文化 / ドナルド・リチー
イメージ・ファクトリー―日本×流行×文化
  • 著者:ドナルド・リチー
  • 翻訳:松田 和也
  • 出版社:青土社
  • 装丁:単行本(187ページ)
  • 発売日:2005-08-01
  • ISBN-10:479176207X
  • ISBN-13:978-4791762071
内容紹介:
目まぐるしいイメージ・チェンジを良しとし、かわいらしさの王国をつくり出す、イメージの工場とは何か。半世紀にわたり精力的に日本文化を海外に紹介してきた映像作家・批評家による犀利な日本文化論。

愛憎と理解のこもった犀利な日本批評

三島由紀夫が絶賛した映画作家であり、小津や黒澤の研究者でもあるリチー。本書は「幻影の工場」日本への積年の愛憎と理解のこもった犀利(さいり)な批評である。

日本人には新奇なものへの癒やしがたい欲望がある。「もののあわれ」とは、万物の原理である無常の容認であり、新しいものへの愛と未練の否定である。つまり、ここには、伝統の否定が伝統だという日本文化の逆説がある。

日本人は新しいイメージを求める。イメージの変化は本質の変化ではないが、技術の変化や革新とは容易に結びつくため、技術立国的な要因となる。その結果、新しいイメージが、技術を操る企業にコントロールされることになる。

かくして日本はイメージ工場となる。ファッション、広告、性産業、ゲーム。イメージの過剰は、物それ自体と見かけとを混同させ、本質の理解をイメージの所有にすり替えてしまう。イメージ操作が得意な小泉政権は、まことに幻影の工場にふさわしい。リチー氏はそんな野暮(やぼ)なことは一言もいっていないが。

ファッションの世界でいえば、日本は制服天国として名高い。制服は、見かけと本質が一致することだ。しかも、ファッションとは皆が一斉に同じものを着ることであるなら、制服こそファッションの極限例といえよう。日本でコスプレが流行(はや)るのは道理なのである。

もともと日本におけるイメージ技術(画法)は、本書にある土佐光起の定義が示すように、現実と遊離した独自の法則をもつ。つまり、イメージがその語源のイミテーションではなく、自立した価値を帯びやすい。マンガ的なキャラクター商品はその典型であろう。これらのイメージは現実における対応物を欠いている。その特徴は「カワイイ」ことである。

「カワイイ」とは、イメージの世界にしか存在しない均一的幸福感の形容なのだ。その根源にあるのは、リチーによれば、日本最初の憲法の第一条に書かれた「和を以(もっ)て貴しと為(な)す」である。すなわち、自己を定義する必要はもはやなく、ただ均一的幸福感のイメージだけが増殖する世界に私たちは生きているらしい。
イメージ・ファクトリー―日本×流行×文化 / ドナルド・リチー
イメージ・ファクトリー―日本×流行×文化
  • 著者:ドナルド・リチー
  • 翻訳:松田 和也
  • 出版社:青土社
  • 装丁:単行本(187ページ)
  • 発売日:2005-08-01
  • ISBN-10:479176207X
  • ISBN-13:978-4791762071
内容紹介:
目まぐるしいイメージ・チェンジを良しとし、かわいらしさの王国をつくり出す、イメージの工場とは何か。半世紀にわたり精力的に日本文化を海外に紹介してきた映像作家・批評家による犀利な日本文化論。

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初出メディア

朝日新聞

朝日新聞 2005年10月23日

朝日新聞デジタルは朝日新聞のニュースサイトです。政治、経済、社会、国際、スポーツ、カルチャー、サイエンスなどの速報ニュースに加え、教育、医療、環境、ファッション、車などの話題や写真も。2012年にアサヒ・コムからブランド名を変更しました。

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