書評

『錯覚の科学』(文藝春秋)

  • 2018/02/05
錯覚の科学 / クリストファー・チャブリス,ダニエル・シモンズ
錯覚の科学
  • 著者:クリストファー・チャブリス,ダニエル・シモンズ
  • 翻訳:木村 博江
  • 出版社:文藝春秋
  • 装丁:単行本(368ページ)
  • 発売日:2011-02-04
  • ISBN-10:4163736700
  • ISBN-13:978-4163736709
内容紹介:
サブリミナル効果などというものは存在しない。いくらモーツァルトを聴いても、あなたの頭は良くならない。レイプ被害者は、なぜ別人を監獄送りにしたのか?脳トレを続けても、ボケは防止できない。「えひめ丸」を沈没させた潜水艦の艦長は、目では船が見えていたのに、脳が船を見ていなかった。徹底的な追試実験が、脳科学の通説を覆す。

日常生活にあふれる思い込み

著者は2人とも心理学者だが、本書は専門用語を極力避け、平易な表現を心がけているので、非常に読みやすい。

人は日常生活の中で、さまざまな錯覚に陥り、しばしば愚かな行為に走ったり、みずから危険を招いたりする。この本は、そうした錯覚から生じる過失や事故を、具体的な実例を挙げながら、テンポよくさばいていく。

本書が書かれたのは、著者による奇妙な実験の結果がきっかけだった。学生の集団にバスケットボールの試合のビデオを見せ、一方のチームのパスの回数を数えさせた。試合の途中でゴリラの着ぐるみが紛れ込み、カメラに向かって胸をたたく、というパフォーマンスが、予告なしに挿入される。

その結果、学生たちはパスを数えることに気をとられ、乱入したゴリラに気づいた者は、わずか半数しかいなかったという。つまり、人は何かに集中しているとき、予期せぬものに対する注意力が極端に低下するのだ。

こうした、注意力に対する錯覚から始まり、〈記憶の錯覚〉〈自信の錯覚〉〈知識の錯覚〉など、六つの錯覚が具体例とともに、詳しく解き明かされていく。脳トレーニングのゲームで記憶力の低下を防ぐことができるとか、モーツァルトを聞くと頭がよくなるとかいう俗説を信じるのも、錯覚にすぎないと断じる。不注意による、米潜水艦の〈えひめ丸〉への衝突事故も、やはり錯覚から起きたものだという。

わたしたちは、いつも通る道筋の店の並び順など、正確には覚えていない事柄を、知っていると思い込みがちだ。ほかにも注意力、記憶力の過信から生じる錯覚や、単なる偶然に因果関係を求めてしまう錯覚など、多くの錯覚が日常生活にあふれている。

そうした錯覚を、自分なりに検証してみるならば、この本の意図するところが、より鮮明になるだろう。
錯覚の科学 / クリストファー・チャブリス,ダニエル・シモンズ
錯覚の科学
  • 著者:クリストファー・チャブリス,ダニエル・シモンズ
  • 翻訳:木村 博江
  • 出版社:文藝春秋
  • 装丁:単行本(368ページ)
  • 発売日:2011-02-04
  • ISBN-10:4163736700
  • ISBN-13:978-4163736709
内容紹介:
サブリミナル効果などというものは存在しない。いくらモーツァルトを聴いても、あなたの頭は良くならない。レイプ被害者は、なぜ別人を監獄送りにしたのか?脳トレを続けても、ボケは防止できない。「えひめ丸」を沈没させた潜水艦の艦長は、目では船が見えていたのに、脳が船を見ていなかった。徹底的な追試実験が、脳科学の通説を覆す。

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初出メディア

朝日新聞

朝日新聞 2011年4月17日

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