単行本初収録「花に眩む」を読み、作者はこんなすごい作でデビューしたのかと感嘆した。作中で人びとの体には土地によってそれぞれの花が咲く。やがて花の根が心臓にまで浸食すると、人間は花と草の固まりになり、ぐずぐずと崩れて死を迎える。語り手「はな」が子をなした年上の男性は、最近全身にハトムギが繁り、死が近いようだ。
人間はみな「目にするものの美しさにぽかんと口を開いてほろびていく」とはなは思う。人のモータリティをまっすぐ見つめる作者の眼差しに時折たじろぐ。
「なめらかなくぼみ」という編では、「指先で溶けていくバターのようななめらかさ」のあるソファに体がしっくりとはまり、そうして一体化できるソファを主人公は恋愛や結婚より優先する。「マグノリアの夫」では、夫が白木蓮になる。その変容を通して、夫の役者としての人間離れした才能と、作家である妻の同じ表現者としての残酷さが、描かれる。
人間の草木とのラポール(共感的な交信)や一体化は、ひとの感受力や精神の暗がりを語る際に重要な役割を文学において担ってきた。それが実感される傑作短編集である。