書評

『ムラブリ 文字も暦も持たない狩猟採集民から言語学者が教わったこと』(集英社インターナショナル)

  • 2023/12/07
ムラブリ 文字も暦も持たない狩猟採集民から言語学者が教わったこと / 伊藤 雄馬
ムラブリ 文字も暦も持たない狩猟採集民から言語学者が教わったこと
  • 著者:伊藤 雄馬
  • 出版社:集英社インターナショナル
  • 装丁:単行本(256ページ)
  • 発売日:2023-02-24
  • ISBN-10:4797674253
  • ISBN-13:978-4797674255
内容紹介:
就活から逃げ出した言語学徒の青年は、美しい言語を話す少数民族・ムラブリと出会った。文字のないムラブリ語を研究し、自由を愛するムラブリと暮らすうち、日本で培った常識は剥がれ、身体感… もっと読む
就活から逃げ出した言語学徒の青年は、美しい言語を話す少数民族・ムラブリと出会った。文字のないムラブリ語を研究し、自由を愛するムラブリと暮らすうち、日本で培った常識は剥がれ、身体感覚までもが変わっていく……。
言葉とはなにか? そして幸福、自由とはなにか? ムラブリ語研究をとおしてたどり着いた答えとは……?
人間と言葉の新たな可能性を拓く、斬新極まる言語学ノンフィクション。

★高野秀行(ノンフィクション作家、『語学の天才まで1億光年』著者)
「不思議な本。ただ面白いだけでなく、別の世界にトリップしたような感覚に襲われる。」

★川添愛(作家・言語学者、『言語学バーリ・トゥード』著者)
「生きる力を削がれた現代人のために、言語学者に何ができるのか。その答えがここにある。」

【ムラブリとは】
タイやラオスの山岳地帯に暮らす少数民族。人口は500名前後と推測される。
「ムラ」は「人」、「ブリ」は「森」を指すため、「森の人」を意味する。タイ国内では「黄色い葉の精霊」とも呼ばれる。
かつては森のなかで狩猟採集をしながら遊動生活をしていたが、定住化が進んでいる。
ムラブリ語には文字がなく、話者数の減少にともない、消滅の危機にある「危機言語」に指定されている。言語学的に希少な特徴が複数確認されている。

【ムラブリ(語)の不思議】
・あいさつがない?
・「上」は悪く、「下」は良い?
・暦も年齢もない?
・過去と未来が一緒?
・意図的に方言をつくった?
・数を数えるのは宴会芸? etc……

【内容の一部抜粋】
・初調査は突然の「帰れ」で終了
・お金がなさすぎて、ムラブリにおごってもらう
・5年かけて、ムラブリの「家族」になる
・人食い伝説によって分断されたムラブリのグループに100年越しに再会してもらい、その様子を映画にする
・ムラブリ語を話せるようになったことで、身体もムラブリ化していく
・日本でムラブリのように暮らしてみる etc……

【著者略歴】
伊藤雄馬(いとう・ゆうま)
言語学者、横浜市立大学客員研究員。
1986年、島根県生まれ。2010年、富山大学人文学部卒業。2016年、京都大学大学院文学研究科研究指導認定退学。日本学術振興会特別研究員(PD)、富山国際大学現代社会学部講師、東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所共同研究員などを経て、2020年より独立研究に入る。
学部生時代からタイ・ラオスを中心に言語文化を調査研究している。ムラブリ語が母語の次に得意。
2022年公開のドキュメンタリー映画『森のムラブリ』(監督:金子遊)に出演し、現地コーディネーター、字幕翻訳を担当。本作が初の著書。
『ムラブリ』は、タイの文字を持たない狩猟採集民ムラブリと共に暮らし、彼らの用いる言語を学び、研究している若い言語学者の報告である。言葉だけでなくムラブリが何を考え、何を話しているかを知りたいと思うようになった時、言葉がすらすらと口から出て、聞きとりも上達したというのが興味深い。森の人を意味するムラブリは、DNA解析によって500~800年前に農耕民から独立した集団と分かった。

著者は、ムラブリ語はクレオールではないかと考えている。「所有表現の語順が『人―モノ』であること、『なに?』という疑問詞が二つの要素から成っていること、重複などの仕組みの乏しいこと」というクレオールの特徴があるからだ。この語にある三つの方言を、それぞれ500人、4人、20人が用い、しかも年寄りと若者で言葉が変わってきているという。言葉とはなんと柔軟なものなのだろう。彼らが共に暮らしたり離れたりする生活を見て著者は「言語が人々を統合し、同時に分離すること」を知る。同じ言語を話す時、ぼくらは同じだとなるのは会話が協力を求めるからだろう。人間は同じで違い、違って同じ存在であり、言語はまさにそれを示すものなのだ。

文字のないムラブリ語を学んだ著者は、「ムラブリ語を話せるようになる過程で変化した自分自身」が研究成果だと言う。言語は恣意(しい)的と言われるが、言葉が生まれた時には、そこで語り合った人に共感が生じたに違いなく、「どんな音でもよかった」とは言えず、言語を学ぶとはそれを話す仲間の中にあるその感覚を共有することではないか。ムラブリ語を話す時は、森の中で話す距離感で遠くの人に向けて話しており、ムラブリの身体性を意識するという。

言葉は人間とは何かを考える最も興味深い切り口の一つだ。文法や脳の機能などの解明だけでなく、日常生活の中での会話を追うことで、個に集中してきた人間理解を、仲間の中で生きる存在としての人間理解へと広げられるのが興味深い。違って同じ、同じで違うという人間の特徴を知る面白さも含めて。
ムラブリ 文字も暦も持たない狩猟採集民から言語学者が教わったこと / 伊藤 雄馬
ムラブリ 文字も暦も持たない狩猟採集民から言語学者が教わったこと
  • 著者:伊藤 雄馬
  • 出版社:集英社インターナショナル
  • 装丁:単行本(256ページ)
  • 発売日:2023-02-24
  • ISBN-10:4797674253
  • ISBN-13:978-4797674255
内容紹介:
就活から逃げ出した言語学徒の青年は、美しい言語を話す少数民族・ムラブリと出会った。文字のないムラブリ語を研究し、自由を愛するムラブリと暮らすうち、日本で培った常識は剥がれ、身体感… もっと読む
就活から逃げ出した言語学徒の青年は、美しい言語を話す少数民族・ムラブリと出会った。文字のないムラブリ語を研究し、自由を愛するムラブリと暮らすうち、日本で培った常識は剥がれ、身体感覚までもが変わっていく……。
言葉とはなにか? そして幸福、自由とはなにか? ムラブリ語研究をとおしてたどり着いた答えとは……?
人間と言葉の新たな可能性を拓く、斬新極まる言語学ノンフィクション。

★高野秀行(ノンフィクション作家、『語学の天才まで1億光年』著者)
「不思議な本。ただ面白いだけでなく、別の世界にトリップしたような感覚に襲われる。」

★川添愛(作家・言語学者、『言語学バーリ・トゥード』著者)
「生きる力を削がれた現代人のために、言語学者に何ができるのか。その答えがここにある。」

【ムラブリとは】
タイやラオスの山岳地帯に暮らす少数民族。人口は500名前後と推測される。
「ムラ」は「人」、「ブリ」は「森」を指すため、「森の人」を意味する。タイ国内では「黄色い葉の精霊」とも呼ばれる。
かつては森のなかで狩猟採集をしながら遊動生活をしていたが、定住化が進んでいる。
ムラブリ語には文字がなく、話者数の減少にともない、消滅の危機にある「危機言語」に指定されている。言語学的に希少な特徴が複数確認されている。

【ムラブリ(語)の不思議】
・あいさつがない?
・「上」は悪く、「下」は良い?
・暦も年齢もない?
・過去と未来が一緒?
・意図的に方言をつくった?
・数を数えるのは宴会芸? etc……

【内容の一部抜粋】
・初調査は突然の「帰れ」で終了
・お金がなさすぎて、ムラブリにおごってもらう
・5年かけて、ムラブリの「家族」になる
・人食い伝説によって分断されたムラブリのグループに100年越しに再会してもらい、その様子を映画にする
・ムラブリ語を話せるようになったことで、身体もムラブリ化していく
・日本でムラブリのように暮らしてみる etc……

【著者略歴】
伊藤雄馬(いとう・ゆうま)
言語学者、横浜市立大学客員研究員。
1986年、島根県生まれ。2010年、富山大学人文学部卒業。2016年、京都大学大学院文学研究科研究指導認定退学。日本学術振興会特別研究員(PD)、富山国際大学現代社会学部講師、東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所共同研究員などを経て、2020年より独立研究に入る。
学部生時代からタイ・ラオスを中心に言語文化を調査研究している。ムラブリ語が母語の次に得意。
2022年公開のドキュメンタリー映画『森のムラブリ』(監督:金子遊)に出演し、現地コーディネーター、字幕翻訳を担当。本作が初の著書。

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初出メディア

毎日新聞

毎日新聞 2023年5月6日

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