書評

『ロボット: 共生に向けたインタラクション』(東京大学出版会)

  • 2024/03/28
ロボット: 共生に向けたインタラクション / 岡田 美智男
ロボット: 共生に向けたインタラクション
  • 著者:岡田 美智男
  • 出版社:東京大学出版会
  • 装丁:単行本(212ページ)
  • 発売日:2022-03-14
  • ISBN-10:4130151819
  • ISBN-13:978-4130151818
内容紹介:
「考え込むことなく、まわりに半ば委ねてしまおう! 」「関係論的なロボット」の事例から浮かび上がる人間とロボットの共生の可能性人間との関係やインタラクションに焦点を合わせ、〈お掃… もっと読む
「考え込むことなく、まわりに半ば委ねてしまおう! 」

「関係論的なロボット」の事例から浮かび上がる
人間とロボットの共生の可能性

人間との関係やインタラクションに焦点を合わせ、〈お掃除ロボット〉や著者が開発した〈ゴミ箱ロボット〉といった「関係論的なロボット」の具体事例を紹介し、生態学的な観点からその実相を記述することで人間とロボットの共生の可能性を浮かび上がらせる。


【主要目次】


第1章 まわりを味方にしてしまうロボットたち
1 〈お掃除ロボット〉のふるまいを観察してみる
2 〈ゴミ箱ロボット〉の誕生
3 わたしたちとロボットとの相補的な関係

第2章 ひとりでできるってホントなの?
1 「ひとりでできるもん! 」
2 冗長な自由度をどう克服するのか
3 機械と生き物との間にあるロボット
4 おぼつかなく歩きはじめた幼児のように
5 〈バイオロジカルな存在〉から〈ソーシャルな存在〉へ

第3章 ロボットとの社会的相互行為の組織化
1 街角にポツンとたたずむロボット
2 〈アイ・ボーンズ〉の誕生
3 ティッシュをくばろうとするロボット
4 〈アイ・ボーンズ〉との微視的な相互行為の組織化

第4章 言葉足らずな発話が生み出すもの
1 言葉足らずな発話による会話連鎖の組織化
2 日常的な会話に対する構成論的なアプローチ
3 今日のニュースをどう伝えるか
4 ロボットたちによる傾聴の可能性
5 大切な言葉をモノ忘れしたらどうか

第5章 ロボットとの〈並ぶ関係〉でのコミュニケーション
1 公園のなかを一緒に歩く
2 ロボットと一緒に歩く
3 〈自動運転システム〉はどこに向うのか
4 ソーシャルなロボットとしての〈自動運転システム〉に向けて


【シリーズ刊行にあたって】
本シリーズは、ジェームズ・ジェローム・ギブソン( James Jerome Gibson, 1904-1979)によって創始された生態心理学・生態学的アプローチにおける重要なアイデアや概念――アフォーダンス、生態学的情報、情報に基づく直接知覚説、知覚システム、視覚性運動制御、知覚行為循環、探索的活動と遂行的活動、生態学的実在論、環境の改変と構造化、促進行為場、協調など――を受け継いだ、さまざまな分野の日本の研究者が、自分の分野の最先端の研究を一種の「エコロジー」として捉え直し、それを「知の生態学」というスローガンのもとで世に問おうとするものである。

生態学的アプローチのラディカリズムとは、真の意味で行為者の観点から世界と向かい合うことにある。それは、自らの立場を括弧に入れて世界を分析する専門家の観点を特権視するのではなく、日々の生活を送る普通の人々の観点、さらには特定の事象に関わる当事者の観点から、自分(たち)と環境との関係を捉え直し、環境を変え、そして自らを変えていくことを目指す科学である。

本シリーズでは、こうした生態学的な知の発想のもと、生態学的アプローチの諸概念を用いながら、執筆者が専門とするそれぞれの分野を再記述し、そこで浮かび上がる、人間の生の模様を各テーマのもとで提示し、望ましい生の形成を展望することを目的としている。

執筆者たちの専門分野はきわめて多様である。生態学的アプローチのラディカリズムと醍醐味をより広くより深くより多くの人々に共有してもらえるかどうか――本シリーズでまさに「知の生態学」の真意を試してみたい。

行き当たりばったり戦法で周囲味方

J・J・ギブソンが創始した生態心理学の、行為主体と環境とが<ひとつのシステム>を作りあげるという考え方を受け継いださまざまな分野の研究者が、「わたしたちがどう生きるのか、何をなすべきかを考える始点は、環境に取り囲まれた存在の生態学的事実に求めなくてはならない」と考えて本シリーズを立ち上げた。身体の拡張性に目を向ける、その第一巻のテーマがロボットであるところがなんとも興味深い。身体は、人体に止まらないのは勿論、生体である必要もないのだ。

それにしても、ロボットを意識して読み始めた途端に「なにげなくとか、行き当たりばったりに……」という言葉が出てくるのには戸惑った。だが、これこそキーワードなのだ。例としてあげられるのが<お掃除ロボット>だ。使っている方は、「『あまり考え込むことなく、まわりに半ば委ねてしまおう!』という行動スタイル」と言われて納得するだろう。ロボットのために部屋を片付けたことを思い出しながら。

著者の考えるロボットは、この「まわりを味方にする」という特徴をもつ。典型例が「ゴミ箱ロボット」だ。ゴミ箱の姿でヨタヨタ歩くだけで、ゴミを拾うわけではない。これを子どもたちの遊ぶ広場に置いたところ、気がついた一人がゴミを放り込んだ。そこで箱はペコリとお辞儀をする。そしてたちまち箱はゴミでいっぱいになったのである。

このゴミ箱に、「冗長な自由度を抱え、それを上手に克服しながら、環境の変化に柔軟にふるまう」「環境に対して自らの身体を開きながら、ある課題に向けて、まわりと<ひとつのシステム>を作り上げている」という生きものっぽさがあるかららしい。次の課題は、これを社会的な存在にすることだ。

そこで、背骨を四つ積み上げた上に頭をのせたロボット、アイ・ボーンズをつくり、街角でティッシュ配りをさせる。ロボットをつくり込まずに遠隔操作で動かすと、自分がロボットの気持ちになり、「自分のなかに閉じていては、自分の身体の状態でさえもうまく把握できない」ことが分かる。とりあえず動いてみることが大事であり、そのぎこちなさこそが周囲の人の役割を生み出し、ロボットは街にとけ込んでいくのである。

身体の拡張に重要な役割を果たす言葉の場合も、他者に半ば委ねて目的を果たすという方法は変わらない。テーブルに置いた小型アイ・ボーンズが、周りを囲む子どもたちに昔ばなしをするのだが、時々大切な言葉を忘れる。「おばーさんは川に……えっとー、なんだっけ?」となり、ここで子どもが「洗濯」と言えばそれに応じて話は進む。子どもはとても楽しそうだ。

このようにさまざまな場面で、私たちは人の役に立つことが嬉しく、「『わたしたち』としての一体感はとても心地いい」ということが示される。この時大事なのは「お互いの『自律性』はしっかりと担保されていること」である。

今後ロボットは社会の重要な構成要素になるだろう。機械からの発想は完璧に作り込まれたアンドロイドへの道を歩みそうで恐い。ここに登場する、行き当たりばったりでまわりを味方にする「弱者の戦法」を生かしたロボットならよいかなという気持ちになった。
ロボット: 共生に向けたインタラクション / 岡田 美智男
ロボット: 共生に向けたインタラクション
  • 著者:岡田 美智男
  • 出版社:東京大学出版会
  • 装丁:単行本(212ページ)
  • 発売日:2022-03-14
  • ISBN-10:4130151819
  • ISBN-13:978-4130151818
内容紹介:
「考え込むことなく、まわりに半ば委ねてしまおう! 」「関係論的なロボット」の事例から浮かび上がる人間とロボットの共生の可能性人間との関係やインタラクションに焦点を合わせ、〈お掃… もっと読む
「考え込むことなく、まわりに半ば委ねてしまおう! 」

「関係論的なロボット」の事例から浮かび上がる
人間とロボットの共生の可能性

人間との関係やインタラクションに焦点を合わせ、〈お掃除ロボット〉や著者が開発した〈ゴミ箱ロボット〉といった「関係論的なロボット」の具体事例を紹介し、生態学的な観点からその実相を記述することで人間とロボットの共生の可能性を浮かび上がらせる。


【主要目次】


第1章 まわりを味方にしてしまうロボットたち
1 〈お掃除ロボット〉のふるまいを観察してみる
2 〈ゴミ箱ロボット〉の誕生
3 わたしたちとロボットとの相補的な関係

第2章 ひとりでできるってホントなの?
1 「ひとりでできるもん! 」
2 冗長な自由度をどう克服するのか
3 機械と生き物との間にあるロボット
4 おぼつかなく歩きはじめた幼児のように
5 〈バイオロジカルな存在〉から〈ソーシャルな存在〉へ

第3章 ロボットとの社会的相互行為の組織化
1 街角にポツンとたたずむロボット
2 〈アイ・ボーンズ〉の誕生
3 ティッシュをくばろうとするロボット
4 〈アイ・ボーンズ〉との微視的な相互行為の組織化

第4章 言葉足らずな発話が生み出すもの
1 言葉足らずな発話による会話連鎖の組織化
2 日常的な会話に対する構成論的なアプローチ
3 今日のニュースをどう伝えるか
4 ロボットたちによる傾聴の可能性
5 大切な言葉をモノ忘れしたらどうか

第5章 ロボットとの〈並ぶ関係〉でのコミュニケーション
1 公園のなかを一緒に歩く
2 ロボットと一緒に歩く
3 〈自動運転システム〉はどこに向うのか
4 ソーシャルなロボットとしての〈自動運転システム〉に向けて


【シリーズ刊行にあたって】
本シリーズは、ジェームズ・ジェローム・ギブソン( James Jerome Gibson, 1904-1979)によって創始された生態心理学・生態学的アプローチにおける重要なアイデアや概念――アフォーダンス、生態学的情報、情報に基づく直接知覚説、知覚システム、視覚性運動制御、知覚行為循環、探索的活動と遂行的活動、生態学的実在論、環境の改変と構造化、促進行為場、協調など――を受け継いだ、さまざまな分野の日本の研究者が、自分の分野の最先端の研究を一種の「エコロジー」として捉え直し、それを「知の生態学」というスローガンのもとで世に問おうとするものである。

生態学的アプローチのラディカリズムとは、真の意味で行為者の観点から世界と向かい合うことにある。それは、自らの立場を括弧に入れて世界を分析する専門家の観点を特権視するのではなく、日々の生活を送る普通の人々の観点、さらには特定の事象に関わる当事者の観点から、自分(たち)と環境との関係を捉え直し、環境を変え、そして自らを変えていくことを目指す科学である。

本シリーズでは、こうした生態学的な知の発想のもと、生態学的アプローチの諸概念を用いながら、執筆者が専門とするそれぞれの分野を再記述し、そこで浮かび上がる、人間の生の模様を各テーマのもとで提示し、望ましい生の形成を展望することを目的としている。

執筆者たちの専門分野はきわめて多様である。生態学的アプローチのラディカリズムと醍醐味をより広くより深くより多くの人々に共有してもらえるかどうか――本シリーズでまさに「知の生態学」の真意を試してみたい。

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初出メディア

毎日新聞

毎日新聞 2022年5月7日

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