書評

『女たちの沈黙』(早川書房)

  • 2024/05/01
女たちの沈黙 / パット・バーカー
女たちの沈黙
  • 著者:パット・バーカー
  • 翻訳:北村 みちよ
  • 出版社:早川書房
  • 装丁:単行本(457ページ)
  • 発売日:2023-01-20
  • ISBN-10:4152101989
  • ISBN-13:978-4152101983
内容紹介:
トロイア戦争、最後の年。トロイアの近隣都市リュルネソスが、ギリシア連合軍によって滅ぼされた。都市の王妃ブリセイスは囚われ、奴隷となった。主は、英雄アキレウス――彼女の家族と同胞を殺… もっと読む
トロイア戦争、最後の年。トロイアの近隣都市リュルネソスが、ギリシア連合軍によって滅ぼされた。都市の王妃ブリセイスは囚われ、奴隷となった。主は、英雄アキレウス――彼女の家族と同胞を殺した男。
ブリセイスは、やはり「戦利品」として囚われたイーピスらと、新たな日常を築いていく。ところが事態は急変する。アキレウスと不仲である総大将アガメムノンが、ブリセイスを無理やり自分のものにしようというのだ。男たちの争いは激化し、軍内部は混乱を極める。そんななか、女たちに与えられた選択肢は、服従か死か。だが、ブリセイスが選んだのは――。
数々の戦争小説を手掛けてきたブッカー賞作家が、西洋文学の起源にある暴力へ遡り、抑圧された者たちの声を高らかに響き渡らせる傑作歴史小説! イギリスで40万部突破。

装画:サイトウユウスケ
装幀:名久井直子
英米文学では「語り直し」ブームが続いている。名作を土台に語り手や舞台設定を替えて新たな物語を紡ぎだすという手法だ。多くは女性や弱者の視点で語り直される。なかでも題材になることが多いのは、シェイクスピア劇、そしてトロイ戦争だ。トロイ戦争はヘレネを奪われた古代ギリシャ人が仕掛けた戦いであり、ホメロスをはじめ多くの作家をインスパイアし、それが西洋の「正典」の起点になってきたのだ。ヨーロッパ文学は二人の男が一人の少女を取り合ったことに始まる、というある作家の言葉が『女たちの沈黙』冒頭に引用されているが、これはまさしく『イーリアス』のことだ。

つまり、女性が原因で起きた戦いで、女たちは黙殺され続けた。『女たちの沈黙』は、トロイ戦争の英雄(男性)たちが剣をふるって戦い、女性を戦利品として遣り取りする陰で、声を与えられず沈黙を強いられてきた女性ブリセイスらの目と声で語り直す。奪われた女性たちはなにを感じ、なにに抗(あらが)っていたのか。奴隷の屈辱より死を選ぶ者もいれば、艱難の末に生きることを選ぶ者もいる。女と一括りにできない多様な生がそこにはあるのだ。
女たちの沈黙 / パット・バーカー
女たちの沈黙
  • 著者:パット・バーカー
  • 翻訳:北村 みちよ
  • 出版社:早川書房
  • 装丁:単行本(457ページ)
  • 発売日:2023-01-20
  • ISBN-10:4152101989
  • ISBN-13:978-4152101983
内容紹介:
トロイア戦争、最後の年。トロイアの近隣都市リュルネソスが、ギリシア連合軍によって滅ぼされた。都市の王妃ブリセイスは囚われ、奴隷となった。主は、英雄アキレウス――彼女の家族と同胞を殺… もっと読む
トロイア戦争、最後の年。トロイアの近隣都市リュルネソスが、ギリシア連合軍によって滅ぼされた。都市の王妃ブリセイスは囚われ、奴隷となった。主は、英雄アキレウス――彼女の家族と同胞を殺した男。
ブリセイスは、やはり「戦利品」として囚われたイーピスらと、新たな日常を築いていく。ところが事態は急変する。アキレウスと不仲である総大将アガメムノンが、ブリセイスを無理やり自分のものにしようというのだ。男たちの争いは激化し、軍内部は混乱を極める。そんななか、女たちに与えられた選択肢は、服従か死か。だが、ブリセイスが選んだのは――。
数々の戦争小説を手掛けてきたブッカー賞作家が、西洋文学の起源にある暴力へ遡り、抑圧された者たちの声を高らかに響き渡らせる傑作歴史小説! イギリスで40万部突破。

装画:サイトウユウスケ
装幀:名久井直子

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初出メディア

毎日新聞

毎日新聞 2023年2月18日

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