現代チベット文学の短篇集。収録された8篇の作品の多様性に驚く。
表題作はチベットいちばんの都会、ラサを舞台にした若い男女の話。橋の上にたむろして、日雇い仕事の声が掛かるのを待っているプンナムたち。プンナムの気を引きたいランゼー。ふたりは近郊の農村からやってきた若者である。読んでいてくすぐったくなるような淡い恋のお話だが、四駆に乗った金持ち男が登場してランゼーの運命は変わっていく。「眠れる川」はその続篇で、プンナムは三輪自転車タクシーのドライバーに、ランゼーは四駆の男の愛人になっている。ラサの強い日差しの下を疾走する三輪自転車がせつない。
ぼくが勝手に抱いていたチベットのイメージにもっとも近いのが「最後の羊飼い」。羊飼いの若者が盗まれた羊を捜しながら、生きとし生けるものについて思索する。
対照的なのが「四十男の二十歳の恋」。悪天候で出発見合わせとなった西寧の空港で、かつて恋人同士だった男女が偶然再会する。北京に住む男はラサに、ラサに住む女は北京に向かう途中。ふたりの会話から現代中国のなかのチベットという複雑な社会の構造が覗く。