書評

『中国化する日本 日中「文明の衝突」一千年史』(文藝春秋)

  • 2017/11/28
中国化する日本 日中「文明の衝突」一千年史 / 與那覇 潤
中国化する日本 日中「文明の衝突」一千年史
  • 著者:與那覇 潤
  • 出版社:文藝春秋
  • 装丁:単行本(320ページ)
  • 発売日:2011-11-19
  • ISBN-10:4163746900
  • ISBN-13:978-4163746906
内容紹介:
日本の「進歩」は終わったのか-ポスト「3・11」の衝撃の中で、これまで使われてきた「西洋化」・「近代化」・「民主化」の枠組みを放棄し、「中国化」「再江戸時代化」という概念をキーワードに、新しいストーリーを描きなおす。ポップにして真摯、大胆にして正統的、ライブ感あふれる、「役に立つ日本史」の誕生。

昔の中国は新自由主義経済か?

日本が中国化している。経済は中国依存だし(中国がくしゃみをすると、日本が風邪をひく)、尖閣問題をきっかけに中国が日本の領土を奪っていく……なーんて早合点してはいけない。若手歴史学者、與那覇潤が『中国化する日本』で述べているのは、日本社会の中国化である。中国政府とも中国共産党とも人民解放軍とも、まったく関係ない。

中国は世界でいちばん進んだ国だ、というのが著者の前提だ。宋の時代(960~1279)に貴族制を廃止し皇帝に権力を集中させた。官僚は科挙によって広く集める。経済は自由。

著者はあまり強調していないけど、科挙というものが鍵だったとぼくは思う。前科者など一部の例外を除いて誰でも受けられた、つまり人間の能力は平等で、努力の差が結果の差になる。難問奇問愚問のイメージもあるが、実際には考え方を問うものだったらしい。そこから科挙の合格者は頭がいいだけじゃなくて徳もある、となる。トップの皇帝は徳の体現者だ。

新自由主義経済の社会に似ている。勝ち組は努力したいい人で、負け組は怠け者のだめな人、と。

「中国」と正反対なのが「江戸」だ。江戸時代は身分制で階級移動をできなくし、ムラとイエで個人を縛った。不自由だけど、保護もされているので、現状維持で満足という人にはハッピーだった。

中世から現代まで、日本の歴史は中国化と再江戸時代化の両極のあいだを揺れ動いてきたと著者はいう。なるほど、こういう見方もあるのか、とエンタメ的におもしろい。異論反論もいろいろあるだろうが。

現代の日本社会が中国化しているというのはその通りだと思う。もうムラもイエもない。正規雇用労働者はどんどん減り、みんな流民のようになっていく。いくら「絆」だなんだと言っても、崩壊してしまったものの再現は難しい。

中国化は歴史の必然なのだろうか。中国でもなく江戸時代でもなく、という第三の道はないのか。
中国化する日本 日中「文明の衝突」一千年史 / 與那覇 潤
中国化する日本 日中「文明の衝突」一千年史
  • 著者:與那覇 潤
  • 出版社:文藝春秋
  • 装丁:単行本(320ページ)
  • 発売日:2011-11-19
  • ISBN-10:4163746900
  • ISBN-13:978-4163746906
内容紹介:
日本の「進歩」は終わったのか-ポスト「3・11」の衝撃の中で、これまで使われてきた「西洋化」・「近代化」・「民主化」の枠組みを放棄し、「中国化」「再江戸時代化」という概念をキーワードに、新しいストーリーを描きなおす。ポップにして真摯、大胆にして正統的、ライブ感あふれる、「役に立つ日本史」の誕生。

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初出メディア

週刊朝日

週刊朝日 2012年11月9日

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