3・11の原発事故で出た放射性核種で問題になるのは半減期が30年と長いセシウム137である。まず農地の土に注目したところ表面5センチ以内に留まり、しかも粘土質に付着して動かないことがわかった。この性質を利用した除染で放射線量は数%に下がった。著者らはこのような測定を10年続け、除染後の農地での営農再開のための問題を抽出、解決法を探ってきた。科学者の役割を地道に果たした重要な報告であり、これを生かした風評のない福島の農業再生が望まれる。
農地での野菜、豆、茶、果実などのセシウムの動き、森林での樹木やキノコの汚染の緻密な解析と対応方法が示される。農地はカリウム施肥がセシウム吸収を抑制する。森林でのセシウムの受け皿である樹木では、地表に落ちた葉や樹皮が土になり、そこにセシウムが固定される。山からの拡散に問題は残るが、セシウムは最初に触れた箇所に吸着して動かない状態になっていると言える。
現在出荷される農産物はほとんど検出限界値未満で、安全性が担保されている。印象的なのは、汚染動物は生きたままでの除染が可能という結果だ。