近代史に輝く家族の物語
主人公の一人、馬橋清作(うまはしせいさく)は1894年生まれ。父親を日露戦争で亡くしたことで戦争を憎むようになり、徴兵忌避をする道を選ぶ。鍛冶となった清作は、日本中を転々として、技術を磨く。不安に身を焦がすような暮らしの中、一方で、生活の実感を手にする。もう一人の主人公は、清作のひ孫で中学の社会科教師、あさひ。時代も考え方も異なる2人の家族に、どんな共通点があるのか、ここは読んでのお楽しみというところだが、たった一つのファミリー・ストーリーが、近代史という枠組みの中で輝きを放つ瞬間を、佐川は独特の衒(てら)いのない文章で描きだしている。なんと生き生きとした人物たちだろう! 続きをぜひ。