書評

『日露国境交渉史―領土問題にいかに取り組むか』(中央公論社)

  • 2017/07/31
日露国境交渉史―領土問題にいかに取り組むか  / 木村 汎
日露国境交渉史―領土問題にいかに取り組むか
  • 著者:木村 汎
  • 出版社:中央公論社
  • 装丁:新書(262ページ)
  • ISBN:4121011473
内容紹介:
一九九二年九月、日露両国外務省は、日ソ・日露間の最大の争点である北方領土問題についての歴史文書資料集を共同刊行した。今後の日露交渉の土台を提供する画期的な協力作業である。本書は、このように合意された全資料三十五点の背景と意義を分かりやすく解説することによって、十七世紀からエリツィン時代までに及ぶ両国の対立点と合意点の両方を客観的公平に浮彫りにし、さらに今後の解決へ向けての具体的提言を大胆に行なう。

史料でみる北方領土問題

本書を繙(ひもとく)くにあたっては、まずは巻末の「日露問領土問題の歴史に関する日本国外務省とロシア連邦外務省の共同作成資料集」に、目を通すことから始めたい。そうするとたちどころに、これは単に三十五点の歴史的史料の羅列に過ぎないとの不平不満の声が湧きおこるであろう。実はその声に対処することこそ本書執筆の意図であった。著者は、九二年日ロ双方で合意に達した画期的とも言うべき、しかし一見無味乾燥な資料集を、大きな史的文脈と細かい史実との中に位置づけ、北方領土問題を生き生きと語ることを心がける。

しかしだからといって著者は、このホットな争点に対して厳密な学問的態度のみをもって迫り、諸説の単なる紹介をもって事足れりとはしない。あくまで現実に解決すべき外交問題のために、資料集をこう読むべしとの姿勢を明確にしている。その際の著者の読みは、もってまわった複雑な解釈を排し、ごく常識的な平易な解釈に徹する。下田条約や樺太千島交換条約の読みは、まさにそれだ。

さらに著者は、歴史へのイフにしばしば触れる。もしヤルタ会談に臨むルーズヴェルト大統領が、南樺太とクリール諸島に対する誤った歴史認識を是正していたら、もしサンフランシスコ講和条約において、ソ連それに日本の双方ともがそれまでとは異なった混乱した態度をとらなかったら。もし「日ソ共同宣言」の中に、「領土問題を含む」との字句が明記されていたら等々。

そして著者は、フルシチョフとブレジネフはいずれも、その権力のピーク期において日本への柔軟性を示したと説く。続くゴルバチョフは、対日関係に関する限り「新しい政治思考」から後退し、訪日のタイミングも誤ったという。“ゴルバチョフ化”が喧伝(けんでん)されるエリツィンもまた同様の道を歩むのであろうか。著者は結論として、北方領土か経済支援かではなく、北方領土も経済支援もであり、両者のダイナミックな関連が重要であることを断言している。

【新版】
新版 日露国境交渉史 北方領土返還への道  / 木村 汎
新版 日露国境交渉史 北方領土返還への道
  • 著者:木村 汎
  • 出版社:角川学芸出版
  • 装丁:単行本(356ページ)
  • 発売日:2005-10-27
  • ISBN:4047033863
内容紹介:
江戸時代から始まり、紆余曲折をへて未だ解決をみない日本とロシアのあいだの国境問題。1992年に刊行され、2001年に補充された、日露両外務省共同作成による「領土問題の歴史に関する資料集」を軸に、北方領土問題についてのすべてを明らかにし、提言する名著の改訂・完全新版。

ALL REVIEWS経由で書籍を購入いただきますと、書評家に書籍購入価格の0.7~5.6%が還元されます。



【この書評が収録されている書籍】
本に映る時代 / 御厨 貴
本に映る時代
  • 著者:御厨 貴
  • 出版社:読売新聞社
  • 装丁:単行本(305ページ)
  • ISBN:4643970472
内容紹介:
『吉田茂書翰』から『ゴーマニズム宣言』まで「日本」を知り、「自分自身」を知る140冊。気鋭の政治学者が放つ渾身の社会時評&読書ガイド。

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日露国境交渉史―領土問題にいかに取り組むか  / 木村 汎
日露国境交渉史―領土問題にいかに取り組むか
  • 著者:木村 汎
  • 出版社:中央公論社
  • 装丁:新書(262ページ)
  • ISBN:4121011473
内容紹介:
一九九二年九月、日露両国外務省は、日ソ・日露間の最大の争点である北方領土問題についての歴史文書資料集を共同刊行した。今後の日露交渉の土台を提供する画期的な協力作業である。本書は、このように合意された全資料三十五点の背景と意義を分かりやすく解説することによって、十七世紀からエリツィン時代までに及ぶ両国の対立点と合意点の両方を客観的公平に浮彫りにし、さらに今後の解決へ向けての具体的提言を大胆に行なう。

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初出メディア

読売新聞

読売新聞 1993年11月8日

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