書評

『棕櫚の葉を風にそよがせよ』(文遊社)

  • 2024/12/15
棕櫚の葉を風にそよがせよ / 野呂 邦暢
棕櫚の葉を風にそよがせよ
  • 著者:野呂 邦暢
  • 出版社:文遊社
  • 装丁:単行本(520ページ)
  • 発売日:2013-05-31
  • ISBN-10:4892570915
  • ISBN-13:978-4892570919
内容紹介:
故郷への回帰、日々のうつろい、戦火の記憶と幻影…“内なるアメリカ”を描いた第一作「壁の絵」をはじめ、野呂文学の原点である瑞々しい初期作品を集成。

棕櫚の葉を風にそよがせよ 或る男の故郷 狙撃手 白桃 歩哨 ロバート 竹の宇宙船 世界の終り 十一月 ハンター 壁の絵

喧騒とは無縁の澄明な世界

昔、野呂邦暢という作家がいた。亡くなったのは1980年。42歳という若さだった。30年以上の時間が過ぎたことになる。

もっとも世に知られているのは芥川賞を受賞した「草のつるぎ」だろう。他にも郷里・諫早を舞台にした佳品を数多く残した。

けっして目立つ作風ではない。時代を駆け抜けるような疾走感もない。風景を正確に写し、抑制のきいた表現で職人的な小説を多く残した。

むろん私もそうだが、野呂にはファンが多い。だから彼の死後も細々とだが、複数の出版社から彼の作品集が編まれ、出版されてきた。それ自体、稀有だと思う。

そして今度、文遊社から全8巻の予定で小説集成が刊行され始めた。第1巻は、初単行本化の短編2編を含む初期小説集である。

中でも彼の第1作「壁の絵」は本当に素晴らしい。アメリカへの憧憬を、朝鮮戦争勃発時の日本で、屈折した感情のうちに書き留めた小説。朝鮮戦争をこんな形で小説にした例は、他に思い浮かばない。喧騒とは無縁の澄明な世界に入る。小説を読む喜びに浸る。小説の世界から出たくなくなる。
棕櫚の葉を風にそよがせよ / 野呂 邦暢
棕櫚の葉を風にそよがせよ
  • 著者:野呂 邦暢
  • 出版社:文遊社
  • 装丁:単行本(520ページ)
  • 発売日:2013-05-31
  • ISBN-10:4892570915
  • ISBN-13:978-4892570919
内容紹介:
故郷への回帰、日々のうつろい、戦火の記憶と幻影…“内なるアメリカ”を描いた第一作「壁の絵」をはじめ、野呂文学の原点である瑞々しい初期作品を集成。

棕櫚の葉を風にそよがせよ 或る男の故郷 狙撃手 白桃 歩哨 ロバート 竹の宇宙船 世界の終り 十一月 ハンター 壁の絵

ALL REVIEWS経由で書籍を購入いただきますと、書評家に書籍購入価格の0.7~5.6%が還元されます。

初出メディア

日本経済新聞

日本経済新聞 2013年6月12日

  • 週に1度お届けする書評ダイジェスト!
  • 「新しい書評のあり方」を探すALL REVIEWSのファンクラブ
関連記事
陣野 俊史の書評/解説/選評
ページトップへ