書評

『リアリティのダンス』(文遊社)

  • 2018/05/08
リアリティのダンス / アレハンドロ・ホドロフスキー
リアリティのダンス
  • 著者:アレハンドロ・ホドロフスキー
  • 翻訳:青木健史
  • 出版社:文遊社
  • 装丁:単行本(517ページ)
  • 発売日:2012-10-25
  • ISBN-10:4892570761
  • ISBN-13:978-4892570766
内容紹介:
詩人、小説家、漫画原作者、演劇人、マイム役者、人形遣い、画家、タロット研究者、そして、サイコテラピスト。カルトムービーの鬼才は、マルチアーティストだった。いじめ、虐待を受けた少年期、詩へのめざめ、瑞々しくも激しい恋と友情、数々の芸術実験、オカルト的精神修行、そしてサイコテラピーの道へ。ホドロフスキーは、今もイマジネーションの限界を押し広げようと絶えざる努力をしている。踊り出す現実世界と立ちあがる幻想世界、想像力で自分の世界をつくってきた『エル・トポ』監督自伝。

詩と演劇による自己表現の軌跡

ホドロフスキーは日本では奇妙奇天烈な幻想映画「エル・トポ」や「ホーリー・マウンテン」の監督として著名だ。最近では、フレンチ・コミックの伝説的傑作「アンカル」(メビウス画)が邦訳され、ホドロフスキーはその原作者としても知られるようになった。

本書はその自伝だが、映画やマンガ制作についてはほとんど触れていない。本書の主な焦点は3つある。1つは幼少年期の回想、第2は風変わりな演劇人としてのキャリア、最後は特殊な精神療法の開発者としての側面である。

チリで暮らした幼少年期を語る冒頭は、魔術的リアリズムの手法で描かれた家族小説という趣(おもむ)きを呈している。ライオンと仲良くしたり、イワシの大群と遭遇したり、赤い靴を貸した友達が滑って死んだりと、まるで幻想小説のように面白い細部が展開するのだが、最も力がこもっているのは家族、とくに父親との葛藤である。

暴君だった父親の抑圧によってホドロフスキー少年は精神の平衡を失いかけるが、彼を救ったのは、想像力だった。ここではない世界を想像し、自分自身の内面と戯れることで、彼はかろうじて自分の精神を悲惨な家族生活から救いだす。そして、詩と演劇(人形劇)の世界を発見して、自己表現の可能性に目覚めるのだ。

1953年、24歳のホドロフスキーはすべてを捨ててチリを去り、いきなりフランスで暮らし始める。渡航の費用を工面するために大金持ちの老婦人に二晩、体を売ることさえしたという。

フランスでは尊敬するパントマイム役者、マルセル・マルソーの脚本作家となり、大歌手モーリス・シュヴァリエのショウの演出まで行うが、そうしたキャリアを捨てて彼が選んだのは、民間呪術治療にヒントを得たサイコマジックという精神療法の道だった。

ホドロフスキーは人間の精神の病は家族関係の阻害から起こると考え、象徴的な演劇的行為を実践することで、その呪縛を解き、真の自己を発見できると解説する。本書冒頭の幼年期の熱っぽい記述が、サイコマジックの起源を説明していることになる。そこが本書の一番の読みどころである。
リアリティのダンス / アレハンドロ・ホドロフスキー
リアリティのダンス
  • 著者:アレハンドロ・ホドロフスキー
  • 翻訳:青木健史
  • 出版社:文遊社
  • 装丁:単行本(517ページ)
  • 発売日:2012-10-25
  • ISBN-10:4892570761
  • ISBN-13:978-4892570766
内容紹介:
詩人、小説家、漫画原作者、演劇人、マイム役者、人形遣い、画家、タロット研究者、そして、サイコテラピスト。カルトムービーの鬼才は、マルチアーティストだった。いじめ、虐待を受けた少年期、詩へのめざめ、瑞々しくも激しい恋と友情、数々の芸術実験、オカルト的精神修行、そしてサイコテラピーの道へ。ホドロフスキーは、今もイマジネーションの限界を押し広げようと絶えざる努力をしている。踊り出す現実世界と立ちあがる幻想世界、想像力で自分の世界をつくってきた『エル・トポ』監督自伝。

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初出メディア

日本経済新聞

日本経済新聞 2012年11月25日

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