書評

『罪の声』(講談社)

  • 2017/07/30
罪の声 / 塩田 武士
罪の声
  • 著者:塩田 武士
  • 出版社:講談社
  • 装丁:単行本(418ページ)
  • 発売日:2016-08-03
  • ISBN-10:4062199831
  • ISBN-13:978-4062199834
内容紹介:
逃げ続けることが、人生だった。昭和最大の未解決事件「グリ森」を圧倒的な取材と着想で描いた全世代必読!本年度最高の長編小説。

グリ森の子どもたち

もしもグリコ・森永事件で脅迫に使われたのが、幼いころの自分の声だったら……。塩田武士の『罪の声』は、大人になった「声の主」が事件の真相に迫るミステリーである。

3億円事件と並んで昭和最大の未解決事件と呼ばれる「グリ森」。同事件を題材にして、たくさんのノンフィクションや小説が書かれてきた。

『罪の声』は固有名詞こそ置き換えられているが、事件の発生から終息までの経緯は、事実を忠実になぞっている。ぼくも昔、事件現場を訪ね歩いたことがあるが、記述はかなり正確だ。しかも、たんなる事件再現小説ではなく、犯行に加担させられた子どもの人生を描くという、まったく別次元の物語をつくり出したところが見事だ。

小説としての仕掛けが巧みだ。父の遺品から幼い自分の声のテープを発見する俊也。京都でテーラーを営む彼は、父と事件の関係を解明しようとする。一方、同じころ、新聞記者の阿久津は、特集企画で事件の真相究明を命じられる。厳しい上司にドヤされながら、タマネギの皮を剥くように少しずつ事件の芯に迫っていく。英国まで足をのばしつつ。

物語を貫くのは、子どもを事件に巻き込むのは許せないという気持ちだ。脅迫文のこっけいさや振り回される警察の姿などから、犯人を反権力のヒーローに見立てるむきもあるが、作者の姿勢はぶれない。脅迫メッセージに使われたのが子どもであるだけでなく、毒物を入れた菓子で狙われたのも不特定多数の子どもなのである。

現実のグリ森事件の子どもたちは、いまもどこかで生きているはず。この小説をどのように読むのだろう。
罪の声 / 塩田 武士
罪の声
  • 著者:塩田 武士
  • 出版社:講談社
  • 装丁:単行本(418ページ)
  • 発売日:2016-08-03
  • ISBN-10:4062199831
  • ISBN-13:978-4062199834
内容紹介:
逃げ続けることが、人生だった。昭和最大の未解決事件「グリ森」を圧倒的な取材と着想で描いた全世代必読!本年度最高の長編小説。

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初出メディア

週刊朝日

週刊朝日 2016年9月13日

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