書評

『中高年シングル女性──ひとりで暮らすわたしたちのこと』(岩波書店)

  • 2026/02/02
中高年シングル女性──ひとりで暮らすわたしたちのこと / 和田 靜香
中高年シングル女性──ひとりで暮らすわたしたちのこと
  • 著者:和田 靜香
  • 出版社:岩波書店
  • 装丁:新書(256ページ)
  • 発売日:2025-12-23
  • ISBN-10:4004320933
  • ISBN-13:978-4004320937
内容紹介:
女性が一人で暮らしていく。ただ、それだけのことが、こんなにも大変だなんて! あらゆる社会保障や支援の狭間にこぼれ落ちてしまう、「透明」な存在と化した中高年シングル女性。仕事や住まい… もっと読む
女性が一人で暮らしていく。ただ、それだけのことが、こんなにも大変だなんて! あらゆる社会保障や支援の狭間にこぼれ落ちてしまう、「透明」な存在と化した中高年シングル女性。仕事や住まい、お金の悩みから、老後の不安、人間関係まで、「ひとごとではない」著者が多くの当事者女性たちの声とリアルを伝える。

目 次

第1章 中高年シングル女性とは
中高年シングル女性とはどんな存在か?
昔も、これから先も変わらない
女性が踏みつけられる社会で
共通する課題でつながる
制度が変わると理解が深まる
「しんぐるまざあ」から「シニアシングル」へ

第2章 働いているのに、この不全感
石垣りんの嘆き
最初に話を聞かせてくれたうめこさん
リーマンショックと母の死と
加東さん、四人の子を抱え生きる
正規職を義父母の介護で手離す
生活保護を受けたいブラシさん
「短時間労働=非正規=低賃金」の間違い

第3章 いつまで働くのか
「私、一生懸命に働いていた」
女たちのコミューン生活
生活保護の花咲かばあさん
流動させられたのは私たち
人生には思いがけないことが起きる
フリーランスも歳をとる
「働く」も支え合い

第4章 家庭からの脱出
中高年シングル女性と家庭
看取りまで、看取りのあと――シマコさん
女四代――征子さん
蓋をし、演じた日々から――さきこさん

第5章 就職氷河期世代の不安定雇用――会計年度任用職員という働き方
雇い止めが横行する「地方公務員」
非正規女性が支える公共サービス
残業すれば、別日の勤務時間が減らされて……
分かり合える人がいない孤独
「三位一体改革」で進んだ非正規化
年度替わりで勤務時間削減、雇用保険に入れず……
資格をいくつとっても、どこまでも非正規……
「透明にされた女性たち」
変化の兆し

第6章 生涯暮らせる住まいが欲しい
「住まいは人権」なのに、「人権」がない
「いばらの道」の職業人生と住宅問題
シェアハウスから循環する地域の暮らし
地方で就職氷河期を生きるということ
集まって住む――団地の可能性

第7章 差と異の間の権利
じつは三〇年も前から
パワハラ上司、DV彼氏からの逃走
自分の生活をしたいだけなのに
四〇歳での気づき
女性たちの中の「差」と「異」
引きこもりのち立候補

第8章 問題はお金だ――私たちはいかにつながるか
①フェミニズムでつながる
本当は社会構造のせい――miemieさん
北関東のセーファースペース――山田亜紀子さん
②脆弱性を強いられる女性たちのつながり
シンママ大阪――寺内さん
壮絶な体験からシェルターへ
ひとりで生きなきゃいけない三人
連鎖を生まないために

第9章 そこまでどうやってきたのか?
老後を意識する
年金はもらえる?
「花の谷」へ
死ぬことをあきらめない
ひとりでは心細いけど
笑いが絶えない思い出に

第10章 「生きていかないとならないから」
かっこいい吉住さん
吉住さん、フェミニストになる
「逆に、政治の世界で生きると決めました」
壮絶な、しかし決してあきらめない人生
「母子家庭を救済していた事業も一緒になくなった」
「使える制度は使い倒して生きてやる、それが権利」
「抗議しないと何も変わらないです」

おわりに――つまるところは尊厳

制度埒外の女性、個人の尊厳は?

中高年シングル女性とは、誰を指すのか。

本書によれば「同居する配偶者やパートナーがいない四〇歳以上の単身女性。独身、離婚、死別、非婚/未婚の母、夫と別居している女性で、親や祖父母、兄弟姉妹、子どもと暮らしている場合も含む」と定義される。

しかし、おそらく本書の読者層はもう少し厚いのではないか。わたしは現在、パートナーと実母との三人暮らしだけれども、事実婚なので、法的にはシングルであり、法律婚が保証する権利からは締め出されている。結婚して夫がいる女性であっても、その結婚がずっと続く保証はない。離婚もしくは死別によって、シングルになる可能性は誰にもある。

本書が描き出したのは、個人が個人としては大切にされないこの国の、「あらゆる制度や慣習が、女性が自立して生きていくことを計算にいれていない」中で生きている、つまり制度の埒外(らちがい)に置かれてきた女性たちの、日本社会における根源的な不安定さだ。

本書はインタビュー集だ。中高年シングル女性の生の声が、次々に紹介される。働くシングル女性の4割近くが非正規であることにも、いまさら驚きはないが、不平等を強く感じる。

彼女たちのほとんどが、必死で働いている。ところが、彼女たちのうち多くの暮らしぶりは「やや・大変苦しい」。

「一日八時間も働いていたら、文句言う気力もありません。八時間も働けるって、要は専業主婦が家にいて、帰ったらご飯があって風呂も準備されていて、あとは寝るだけって人です」

と、大学時代からずっとファストフード店で働き続けた四十代の女性が言う。日本の労働は、誰かがケアワークを全面的に引き受けることを前提にしているのだ。

これに対して、たとえばドイツでは非正規雇用というもの自体が存在せず、安定した最低賃金のもと、自分のワークライフバランスに応じて働き方が選べるという。

本書でしばしば引用されるのが、『ひとり暮しの戦後史』(1975年刊・岩波新書)だ。戦争で男たちが大勢死んで、結婚せずひとりで暮らした女性たちの記録。そのころから女性たちの環境は何一つ変わっていないと著者は憤る。

その上、ひとりで生きる女性は増えているのに、非正規雇用の拡大や就職氷河期の到来といった外的条件の中で、働くシングル女性たちはもっとも脆弱(ぜいじゃく)な、不安定な働き方を強いられた。そうして社会は、制度からシングル女性を追い出しておきながら、あたかも制度に収まらない彼女たちに問題があるかのように扱ってきた。

女性に押しつけられがちな過重なケアワーク、シングルマザーへの支援、ひとりで生きる女性の「住まい」の問題、老後の頼りになるはずの年金、生活保護へのアクセス……。どれひとつとして、じゅうぶんな公的支えのあるものはない。重くのしかかるのは「自己責任論」だ。ひとりで老後を迎えつつある中高年女性たちは、600万人以上いる。

この一冊から浮かび上がるのは、歪(ゆが)んだ社会の姿だ。中高年シングル女性がのびやかに老後を迎えられる社会は、個人の尊厳が守られる、誰にとっても生きやすい社会となるはずなのである。
中高年シングル女性──ひとりで暮らすわたしたちのこと / 和田 靜香
中高年シングル女性──ひとりで暮らすわたしたちのこと
  • 著者:和田 靜香
  • 出版社:岩波書店
  • 装丁:新書(256ページ)
  • 発売日:2025-12-23
  • ISBN-10:4004320933
  • ISBN-13:978-4004320937
内容紹介:
女性が一人で暮らしていく。ただ、それだけのことが、こんなにも大変だなんて! あらゆる社会保障や支援の狭間にこぼれ落ちてしまう、「透明」な存在と化した中高年シングル女性。仕事や住まい… もっと読む
女性が一人で暮らしていく。ただ、それだけのことが、こんなにも大変だなんて! あらゆる社会保障や支援の狭間にこぼれ落ちてしまう、「透明」な存在と化した中高年シングル女性。仕事や住まい、お金の悩みから、老後の不安、人間関係まで、「ひとごとではない」著者が多くの当事者女性たちの声とリアルを伝える。

目 次

第1章 中高年シングル女性とは
中高年シングル女性とはどんな存在か?
昔も、これから先も変わらない
女性が踏みつけられる社会で
共通する課題でつながる
制度が変わると理解が深まる
「しんぐるまざあ」から「シニアシングル」へ

第2章 働いているのに、この不全感
石垣りんの嘆き
最初に話を聞かせてくれたうめこさん
リーマンショックと母の死と
加東さん、四人の子を抱え生きる
正規職を義父母の介護で手離す
生活保護を受けたいブラシさん
「短時間労働=非正規=低賃金」の間違い

第3章 いつまで働くのか
「私、一生懸命に働いていた」
女たちのコミューン生活
生活保護の花咲かばあさん
流動させられたのは私たち
人生には思いがけないことが起きる
フリーランスも歳をとる
「働く」も支え合い

第4章 家庭からの脱出
中高年シングル女性と家庭
看取りまで、看取りのあと――シマコさん
女四代――征子さん
蓋をし、演じた日々から――さきこさん

第5章 就職氷河期世代の不安定雇用――会計年度任用職員という働き方
雇い止めが横行する「地方公務員」
非正規女性が支える公共サービス
残業すれば、別日の勤務時間が減らされて……
分かり合える人がいない孤独
「三位一体改革」で進んだ非正規化
年度替わりで勤務時間削減、雇用保険に入れず……
資格をいくつとっても、どこまでも非正規……
「透明にされた女性たち」
変化の兆し

第6章 生涯暮らせる住まいが欲しい
「住まいは人権」なのに、「人権」がない
「いばらの道」の職業人生と住宅問題
シェアハウスから循環する地域の暮らし
地方で就職氷河期を生きるということ
集まって住む――団地の可能性

第7章 差と異の間の権利
じつは三〇年も前から
パワハラ上司、DV彼氏からの逃走
自分の生活をしたいだけなのに
四〇歳での気づき
女性たちの中の「差」と「異」
引きこもりのち立候補

第8章 問題はお金だ――私たちはいかにつながるか
①フェミニズムでつながる
本当は社会構造のせい――miemieさん
北関東のセーファースペース――山田亜紀子さん
②脆弱性を強いられる女性たちのつながり
シンママ大阪――寺内さん
壮絶な体験からシェルターへ
ひとりで生きなきゃいけない三人
連鎖を生まないために

第9章 そこまでどうやってきたのか?
老後を意識する
年金はもらえる?
「花の谷」へ
死ぬことをあきらめない
ひとりでは心細いけど
笑いが絶えない思い出に

第10章 「生きていかないとならないから」
かっこいい吉住さん
吉住さん、フェミニストになる
「逆に、政治の世界で生きると決めました」
壮絶な、しかし決してあきらめない人生
「母子家庭を救済していた事業も一緒になくなった」
「使える制度は使い倒して生きてやる、それが権利」
「抗議しないと何も変わらないです」

おわりに――つまるところは尊厳

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初出メディア

毎日新聞

毎日新聞 2026年1月31日

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