書評
『中高年シングル女性──ひとりで暮らすわたしたちのこと』(岩波書店)
制度埒外の女性、個人の尊厳は?
中高年シングル女性とは、誰を指すのか。本書によれば「同居する配偶者やパートナーがいない四〇歳以上の単身女性。独身、離婚、死別、非婚/未婚の母、夫と別居している女性で、親や祖父母、兄弟姉妹、子どもと暮らしている場合も含む」と定義される。
しかし、おそらく本書の読者層はもう少し厚いのではないか。わたしは現在、パートナーと実母との三人暮らしだけれども、事実婚なので、法的にはシングルであり、法律婚が保証する権利からは締め出されている。結婚して夫がいる女性であっても、その結婚がずっと続く保証はない。離婚もしくは死別によって、シングルになる可能性は誰にもある。
本書が描き出したのは、個人が個人としては大切にされないこの国の、「あらゆる制度や慣習が、女性が自立して生きていくことを計算にいれていない」中で生きている、つまり制度の埒外(らちがい)に置かれてきた女性たちの、日本社会における根源的な不安定さだ。
本書はインタビュー集だ。中高年シングル女性の生の声が、次々に紹介される。働くシングル女性の4割近くが非正規であることにも、いまさら驚きはないが、不平等を強く感じる。
彼女たちのほとんどが、必死で働いている。ところが、彼女たちのうち多くの暮らしぶりは「やや・大変苦しい」。
「一日八時間も働いていたら、文句言う気力もありません。八時間も働けるって、要は専業主婦が家にいて、帰ったらご飯があって風呂も準備されていて、あとは寝るだけって人です」
と、大学時代からずっとファストフード店で働き続けた四十代の女性が言う。日本の労働は、誰かがケアワークを全面的に引き受けることを前提にしているのだ。
これに対して、たとえばドイツでは非正規雇用というもの自体が存在せず、安定した最低賃金のもと、自分のワークライフバランスに応じて働き方が選べるという。
本書でしばしば引用されるのが、『ひとり暮しの戦後史』(1975年刊・岩波新書)だ。戦争で男たちが大勢死んで、結婚せずひとりで暮らした女性たちの記録。そのころから女性たちの環境は何一つ変わっていないと著者は憤る。
その上、ひとりで生きる女性は増えているのに、非正規雇用の拡大や就職氷河期の到来といった外的条件の中で、働くシングル女性たちはもっとも脆弱(ぜいじゃく)な、不安定な働き方を強いられた。そうして社会は、制度からシングル女性を追い出しておきながら、あたかも制度に収まらない彼女たちに問題があるかのように扱ってきた。
女性に押しつけられがちな過重なケアワーク、シングルマザーへの支援、ひとりで生きる女性の「住まい」の問題、老後の頼りになるはずの年金、生活保護へのアクセス……。どれひとつとして、じゅうぶんな公的支えのあるものはない。重くのしかかるのは「自己責任論」だ。ひとりで老後を迎えつつある中高年女性たちは、600万人以上いる。
この一冊から浮かび上がるのは、歪(ゆが)んだ社会の姿だ。中高年シングル女性がのびやかに老後を迎えられる社会は、個人の尊厳が守られる、誰にとっても生きやすい社会となるはずなのである。
ALL REVIEWSをフォローする







































