書評

『時給はいつも最低賃金、これって私のせいですか? 国会議員に聞いてみた。』(朝日新聞出版)

  • 2024/10/19
時給はいつも最低賃金、これって私のせいですか? 国会議員に聞いてみた。 / 和田 靜香,小川 淳也(取材協力)
時給はいつも最低賃金、これって私のせいですか? 国会議員に聞いてみた。
  • 著者:和田 靜香,小川 淳也(取材協力)
  • 出版社:朝日新聞出版
  • 装丁:文庫(360ページ)
  • 発売日:2024-10-07
  • ISBN-10:4022621028
  • ISBN-13:978-4022621023
内容紹介:
話題の書から3年––そして問題勃発!!「私たちは敵対してしまった」責任とは? 正義とは? 二人の対談の行方は––息が詰まるほど苦しい生活が続くのは「私のせい」? まったくの政治シロウ… もっと読む
話題の書から3年––そして問題勃発!!
「私たちは敵対してしまった」
責任とは? 正義とは? 二人の対談の行方は––

息が詰まるほど苦しい生活が続くのは「私のせい」?
まったくの政治シロウトで50代のフリーランスライターが、映画『なぜ君は総理大臣になれないのか』の国会議員・小川淳也さんに政治の疑問と怒りについて直接問答した365日。
話題の一冊にあらたな文庫用特別対談「戦争を起こさないために」を大幅加筆。
誰もが政治参加できると実感できる必読の書!
解説:松尾 潔

【構成】
■第1章 生きづらいのは自分のせい?
応援する候補者が当選したためしがない
政治が分からないまま大人になった
赤えんぴつで殴り書きした不安

■第2章 耳タコの人口問題が生活苦の根源
ポストコロナの最重要課題は「人口問題」
「コロナから国民を守ります」ぐらい言えないのか
賃金が上がった、景気が良くなった、と言ってたけれど
分断はそれぞれの心の中にある
税金が高くて払いたくありません

■第3章 「なんか高い」では済まされない税金の話
仕方なく払っている税金の行方
ゆくゆくは消費税100% ?
ベーシックインカムで安心できるか?
住む場所さえも確保できない
[コラム]分からないことは恥ずかしいことじゃない
[コラム]「国民」は使ってはいけない言葉

■第4章 歳をとると就職できない理由
働く人の年齢差別
この賃金でこの社会保険料はおかしい
女性たちは競争させられている
待ったナシの移民問題
小川さんが100 %正解ではない

■第5章 見て見ぬふりをしてきた環境、エネルギー、原発問題
「私たちの家は火事になっている」
エネルギーは私たちの力で作れる
分かり合えない原発の話
私が政治を語っていいのか
小川さん号泣

■第6章 自分を考える=政治を考える
私も沖縄に基地を押しつけている
「安心・安全なオリンピックを目指します」?
間違えてもいい民主主義
不安をそのままにしないための政治
おわりに 私の不安は日本の不安だった

■文庫版特別編 戦争を起こさないために―あれから3年
そもそも戦争って、政治なのか?
今の日本の状況と戦前は似ている
戦争に向かわせる法律なんて、おかしい!
1機あたり149 億円って何だ?
[コラム]2024年、私たちは敵対してしまった

文庫版 あとがき
政治問答ブックリスト
解説 松尾 潔

脱「お任せ政治」対話が生む希望

これは一冊の「対話篇」だ。

対話するのは、最低賃金のアルバイトで生計を支えつつ、音楽や相撲について書くフリーライター(56歳女性)と、次世代リーダーの一人と目される、野党の国会議員(50歳男性)。

冒頭には、政治不信が列挙される。「安心させてくれない」「働いても時給が安い」「女性差別があたりまえ」「貧困がおいてけぼり」「年金が払えない」「健康を守ってもらえない」。著者は不安を安心に変えるビジョンを国会議員が示せるか否か、政策を読み込み、疑問をぶつけるのだ。

市井の人代表が、誠実な政治家にそのビジョンを聞き、かみくだいて一冊にした本――読む前はそう、想像していた。

しかし、そうではなかった。この本の意義は、「対話」にある。

わたしが驚愕したのは、家賃の高さと独身女性やフリーランスへの差別的対応のせいで慢性的に住宅問題に悩まされている著者が、「ベーシックサービスに住宅扶助を加えて」という、切実な要望をつきつけるくだり。

個人に現金を支給するベーシックインカム=最低生計補償と、医療や介護、教育などの公的サービスを無料にするベーシックサービスを、国会議員は「未来の政策」として提言している。けれど、国会議員は「住宅手当はベーシックインカムに上乗せするのが透明で平等」という意見だ。

ここで著者は怒りだす。住居が持てないのはお金の問題だけではない。独身女性だから、フリーランスだから、あるいは外国人だから等々、門前払いを食う層は存在する。お金も重要だが、フラットに配ればいいわけじゃない。たいへん重要な政策と喝破した著者は、複雑な税制や社会保障の仕組みをしゃかりきになって勉強し、総務省の「消費実態調査」グラフまで持ち出して、説得にかかる。ベーシックインカムじゃダメ、ベーシックサービスで支えなきゃ!

すると国会議員が新しい施策を思いつくのだ。「国が保証人になる制度を作るのはどうだろう」!

この場面と、それに続く二人の画期的なやりとりのくだりには、なにか確実に目を啓(ひら)かされる。これは、主権者がその代表である国会議員と「対話」する本だ。たとえそこに意見の違いや対立があっても、「対話」はなにかを生むのだと、希望を感じさせてくれる。

最終的に、この「対話」こそが民主主義だと、著者は気づくのだが、その過程で読者も、お上にお任せ的な政治ではない、一国の主権者としてのふるまいとはどういうものか考えさせられる。著者ほどの猛勉強はできないにしても、自分にとって重要な課題について主体的に考え、有権者の代表といっしょに解を導こうという姿勢は民主主義の基本であるべきだろう。でも、この国ではあまり重要視されてこなかった気がする。

このような、主権者に考えさせ、積極的に参加させる民主主義のありようも、この国会議員の持論であるらしい。昨年公開されたドキュメンタリー映画で注目された、「日本を良くしたい政策オタク」の野党政治家・小川淳也氏の政策や人となりに関しては、『本当に君は総理大臣になれないのか』(小川淳也・中原一歩著、講談社現代新書)が参考になる。

【単行本】
時給はいつも最低賃金、これって私のせいですか? 国会議員に聞いてみた。 / 和田 靜香,小川淳也(取材協力)
時給はいつも最低賃金、これって私のせいですか? 国会議員に聞いてみた。
  • 著者:和田 靜香,小川淳也(取材協力)
  • 出版社:左右社
  • 装丁:単行本(280ページ)
  • 発売日:2021-09-07
  • ISBN-10:4865280456
  • ISBN-13:978-4865280456
内容紹介:
50代、単身、フリーランス、お金なし。さらにコロナ禍でバイトをクビにーー。一ライターと国会議員・小川淳也さんが繰り広げた“政治問答365日"息が詰まるほど不安で苦しい生活が続くの… もっと読む
50代、単身、フリーランス、お金なし。さらにコロナ禍でバイトをクビにーー。
一ライターと国会議員・小川淳也さんが繰り広げた“政治問答365日"

息が詰まるほど不安で苦しい生活が続くのは、「私のせい」?
まったく分からない“不安"の正体を知るべく降り立ったのは、永田町・衆議院第二議員会館。
この「分からない」を解決するために、国会議員の小川さんに直接聞いてみることにしたーー。

映画『なぜ君は総理大臣になれないのか』で話題の国会議員・小川淳也に、相撲・音楽ライターとして活動する和田靜香が、生きづらさの原因を直接ぶつけた汗と涙の激論の数々!
お金、住まい、税金、働き方、ジェンダーなど、人それぞれが抱える悩みを政治の力を使って解決へ導く一冊。


❖目次
はじめに コロナ禍の前から私はずっと不安だった

▼第1章 生きづらいのは自分のせい?
応援する候補者が当選したためしがない
政治が分からないまま大人になった
コラム  赤えんぴつで殴り書きした不安

▼第2章 耳タコの人口問題が生活苦の根源
ポストコロナの最重要課題は「人口問題」
「コロナから国民を守ります」ぐらい言えないのか
賃金が上がった、景気が良くなった、と言ってたけれど
コラム  分断はそれぞれの心の中にある
コラム  税金が高くて払いたくありません

▼第3章 「なんか高い」では済まされない税金の話
仕方なく払っている税金の行方
ゆくゆくは消費税100%! ?
ベーシックインカムで安心できるか?
住む場所さえも確保できない
コラム  分からないことは恥ずかしいことじゃない
コラム  「国民」は使ってはいけない言葉

▼第4章 歳をとると就職できない理由
働く人の年齢差別
この賃金でこの社会保険料はおかしい
女性たちは競争させられている
待ったナシの移民問題
コラム  小川さんが100%正解ではない

▼第5章 見て見ぬふりをしてきた
環境、エネルギー、原発問題
「私たちの家は火事になっている」
エネルギーは私たちの力で作れる
分かり合えない原発の話
コラム  私が政治を語っていいのか
コラム  小川さん号泣

▼第6章 自分を考える=政治を考える
私も沖縄に基地を押し付けている
「安心・安全なオリンピックを目指します」?
間違えてもいい民主主義
不安をそのままにしないための政治

おわりに 私の不安は日本の不安だった
政治問答ブックリスト

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時給はいつも最低賃金、これって私のせいですか? 国会議員に聞いてみた。 / 和田 靜香,小川 淳也(取材協力)
時給はいつも最低賃金、これって私のせいですか? 国会議員に聞いてみた。
  • 著者:和田 靜香,小川 淳也(取材協力)
  • 出版社:朝日新聞出版
  • 装丁:文庫(360ページ)
  • 発売日:2024-10-07
  • ISBN-10:4022621028
  • ISBN-13:978-4022621023
内容紹介:
話題の書から3年––そして問題勃発!!「私たちは敵対してしまった」責任とは? 正義とは? 二人の対談の行方は––息が詰まるほど苦しい生活が続くのは「私のせい」? まったくの政治シロウ… もっと読む
話題の書から3年––そして問題勃発!!
「私たちは敵対してしまった」
責任とは? 正義とは? 二人の対談の行方は––

息が詰まるほど苦しい生活が続くのは「私のせい」?
まったくの政治シロウトで50代のフリーランスライターが、映画『なぜ君は総理大臣になれないのか』の国会議員・小川淳也さんに政治の疑問と怒りについて直接問答した365日。
話題の一冊にあらたな文庫用特別対談「戦争を起こさないために」を大幅加筆。
誰もが政治参加できると実感できる必読の書!
解説:松尾 潔

【構成】
■第1章 生きづらいのは自分のせい?
応援する候補者が当選したためしがない
政治が分からないまま大人になった
赤えんぴつで殴り書きした不安

■第2章 耳タコの人口問題が生活苦の根源
ポストコロナの最重要課題は「人口問題」
「コロナから国民を守ります」ぐらい言えないのか
賃金が上がった、景気が良くなった、と言ってたけれど
分断はそれぞれの心の中にある
税金が高くて払いたくありません

■第3章 「なんか高い」では済まされない税金の話
仕方なく払っている税金の行方
ゆくゆくは消費税100% ?
ベーシックインカムで安心できるか?
住む場所さえも確保できない
[コラム]分からないことは恥ずかしいことじゃない
[コラム]「国民」は使ってはいけない言葉

■第4章 歳をとると就職できない理由
働く人の年齢差別
この賃金でこの社会保険料はおかしい
女性たちは競争させられている
待ったナシの移民問題
小川さんが100 %正解ではない

■第5章 見て見ぬふりをしてきた環境、エネルギー、原発問題
「私たちの家は火事になっている」
エネルギーは私たちの力で作れる
分かり合えない原発の話
私が政治を語っていいのか
小川さん号泣

■第6章 自分を考える=政治を考える
私も沖縄に基地を押しつけている
「安心・安全なオリンピックを目指します」?
間違えてもいい民主主義
不安をそのままにしないための政治
おわりに 私の不安は日本の不安だった

■文庫版特別編 戦争を起こさないために―あれから3年
そもそも戦争って、政治なのか?
今の日本の状況と戦前は似ている
戦争に向かわせる法律なんて、おかしい!
1機あたり149 億円って何だ?
[コラム]2024年、私たちは敵対してしまった

文庫版 あとがき
政治問答ブックリスト
解説 松尾 潔

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初出メディア

毎日新聞

毎日新聞 2021年9月4日

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