書評
『哲学用語図鑑』(プレジデント社)
思想体系を芋づる式に解説
哲学、思想の本がヒット中。近年の『超訳 ニーチェの言葉』のヒットやサンデルブームなども記憶に新しく、いまさら珍しくない現象ではある。本書は「生得観念」「啓蒙(けいもう)主義」「功利主義」「唯物論」といった哲学の言葉を図解入りで説明してくれるというもの。
例えば「構造主義」。かなり難しい概念だ。「人間の言動は、その人間が属する社会や文化の構造によって規定されていると考える思想」という説明だけでは難しくてよくわからない。一方、背景はこう。レヴィ=ストロースは「サルトル」の“主体的な行動がたいせつ”という「実存主義」への批判としてこれを提示した。サルトルの「主体性」が西洋偏重であると批判したレヴィ=ストロースは、未開文明の風習を調べ、普遍的な人類の行動を「構造」として見いだす。またこうした「構造」というアイデアは、「ソシュール」の「言語学」の応用だ。
やっぱりどこまで行っても難しいことに変わりはない。だがその概念が生み出された背景と体系があることは理解できる。本書には、サルトルとソシュールの解説もあるので、それを参照していけばいいのだ。芋づる式哲学解説本。それが本書のおもしろい部分である。
現代は実用書しか売れないと言われる時代だ。「構造主義」を知ることが現実の生活やビジネスに結びつくとは思えない。だが哲学の体系の先端、つまり本書の芋づるの最後部に置かれる項目「スキゾ」「ノマド」「ジェンダー」などが現実の働き方や人間関係の築き方と無縁ではないように思う。実際、哲学本が売れ始めたきっかけは、『超訳 ニーチェの言葉』などが「哲学思想」棚ではなく「ビジネス」の棚に置かれるようになったからとも言われる。哲学本が売れる理由。それは、哲学が実用だからなのだろう。
朝日新聞 2015年4月19日
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