書評

『だれが「本」を殺すのか』(プレジデント社)

  • 2017/10/11
だれが「本」を殺すのか / 佐野 眞一
だれが「本」を殺すのか
  • 著者:佐野 眞一
  • 出版社:プレジデント社
  • 装丁:単行本(461ページ)
  • ISBN-10:4833417162
  • ISBN-13:978-4833417167
内容紹介:
活字離れ、少子化、出版界の制度疲労、そしてデジタル化の波-いま、グーテンベルク以来の巨大な地殻変動。未曾有の危機に、「本」が悲鳴を上げている!!この「事件」を、豪腕「大宅賞」作家が取材・執筆に丸2年1千枚に刻み込んだ渾身のノンフィクション。

精力的な取材で出版界の危機をルポ

長引く不況で建設や流通業界の危機がとり沙汰されているが、それ以上の危機にさらされているのが出版業界だ。昨年はついに四年連続のマイナス成長を記録したが、時代の動きに合わない生産や流通の方式、他のメディアの影響などによって、この二兆四千億円の市場はいまや構造不況の見本のようになってしまった(ALL REVIEWS事務局注:本書評執筆時期は2001年)。

出版の諸相は文化の性格とも深い関連を有するので、全体像の把握は容易ではない。その点、本書はノンフィクション作家の目配りと取材力が発揮されているので、地方出版から図書館、書評のあり方にまで分析が及び、現状を理解する上に役立つ。

著者は大手書店のトップや取次の責任者、ベストセラーの編集者や図書館の運営責任者、はては電子出版の推進者にいたるまで精力的にアタックし、そのホンネを引き出す。たとえばある書店主は出版社のぬるま湯的な体質を「在庫の有無を電話で問い合わせても、昼休みだといってつなごうとしない」などと批判するのだが、従来この種の声はなかなか活字にならなかった。著者は、本という商品の特徴は生産者と消費者が背中合わせにいることにあるのに、版元と読者のあいだの距離、意識のズレは広がる一方だとコメントする。書店主の一人が「いま本は完全な消費財になっている。著者も含めて人間の深いところまで考えずに本をつくっている」という意味の発言を行っているのが印象にのこった。現代は紙の本からデジタル出版への転換期というが、考えてみれば活字離れが叫ばれてから二〇年に近い歳月が経過し、いまや出版界の中枢は内的な核としての書物を知らないゲーム世代、映像世代によって占められている。終戦直後には出版社の前に徹夜の行列ができたものだが、書物が米の飯だった世代と単なる嗜好(しこう)の具や情報源でしかない世代との間に落差が生じるのも当然だろう。

他の媒体や芸術にせよ、すでにこのような内的な変質が生じているのだが、利益さえあがっていればよいというのか、わたしたちはそれを正面から見ようとしないだけなのだ。
だれが「本」を殺すのか / 佐野 眞一
だれが「本」を殺すのか
  • 著者:佐野 眞一
  • 出版社:プレジデント社
  • 装丁:単行本(461ページ)
  • ISBN-10:4833417162
  • ISBN-13:978-4833417167
内容紹介:
活字離れ、少子化、出版界の制度疲労、そしてデジタル化の波-いま、グーテンベルク以来の巨大な地殻変動。未曾有の危機に、「本」が悲鳴を上げている!!この「事件」を、豪腕「大宅賞」作家が取材・執筆に丸2年1千枚に刻み込んだ渾身のノンフィクション。

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初出メディア

東京新聞

東京新聞 2001年3月4日

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