書評
『猫背の虎 動乱始末』(集英社)
軽妙洒脱 新鮮な筆の運び
乱歩賞出身の著者は、近年歴史時代小説にも進出し、新境地を開いている。本書はその3作目。前2作がやや重たい歴史小説だったのに比べ、今回はなじみやすい幕末、それも安政の大地震を背景に、南町奉行所同心がさっそうと活躍する、江戸ものである。雑誌に連載された長編小説だが、地震をテーマにした連作短編集としても、読むことができる。
亡父のあとを継いで、当番方の同心になった大田虎之助は、大地震を契機に臨時の市中見廻(みまわ)り役を、命じられる。大地震の混乱を背景に、虎之助が取り組むのは、板前が人違いで犯した刺傷事件、嫉妬に狂う女の赤ん坊誘拐など、五つの事件。穿鑿(せんさく)好きの母親と、口うるさい2人の姉を適当にあしらいつつ、御用聞きの松五郎らと人情味豊かに、事件の解決に当たる。軽妙洒脱(しゃだつ)な筆の運びが、これまでにない新鮮さを生んでいる。
著者には珍しい、シリーズものになりそうな期待を、抱かせられる。
朝日新聞 2012年6月10日
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