書評

『精神を切る手術――脳に分け入る科学の歴史』(岩波書店)

  • 2020/01/11
精神を切る手術――脳に分け入る科学の歴史 / ぬで島 次郎
精神を切る手術――脳に分け入る科学の歴史
  • 著者:ぬで島 次郎
  • 出版社:岩波書店
  • 装丁:単行本(256ページ)
  • 発売日:2012-05-24
  • ISBN-10:4000258435
  • ISBN-13:978-4000258432
内容紹介:
脳の中を切るロボトミーなどの精神外科は、非人道的な手術として、日本では封印された。しかしそれは、「過去のあやまち」として片付けてよいものではなく、現代の脳科学の研究・臨床とさまざまな形で関わっているのではないか。「精神を切る手術」の歴史から考える、刺激的な脳科学論。

精神外科の役割、検証求める

日本では現在、ロボトミーを含む精神外科手術は、行われていない。少なくとも、そういわれている。

ロボトミーは、前頭葉白質切截(せっせつ)術のことで、神経繊維の束を断つことによって、脳の異常を改善しようとする手術だ。ほかにも、前頭葉の一部を切除するロベクトミー、より侵襲度の低い定位脳手術など、さまざまな手法がある。

精神外科手術は、1950年代まではなにがしかの効果がある、と認識されていた。その後、クロルプロマジンなどの向精神薬が開発されて、治療効果のはっきりしないロボトミーは、しだいにすたれた。実は、ロボトミーに対する批判が高まったのは、手術が下火になったあとの60年代後半以降のことだ。72年に、カリフォルニアの刑務所で、受刑者に精神外科手術が行われ、それが治療目的よりも社会防衛目的とみなされて、強い批判を浴びる結果になった、という。

著者は、ロボトミーを初めて行ったモニス、それを大きく発展させたフリーマン、さらに日本での第一人者とされる廣瀬貞雄らの事績を紹介しつつ、精神外科の持つ意味を多面的に問い直す。欧米では、切截の手法を改善した定位脳手術が、今もなお行われているが、日本では日本精神神経学会が75年の学会で、〈精神外科否定決議〉を採択して以来、精神外科はタブーになってしまった。もっともその決議は、手術を受けた患者の予後追跡調査なしに行われたため、医学面での検証が不十分だった、という。

著者は、精神外科を擁護するわけではなく、またその復活を強く主張しているわけでもない。ただ、これをタブー視して糾弾し、否定するのではなく、精神外科がこの分野で果たした役割を見直し、客観的な分析検証を行うことで、いまだ十分に解明されたとはいえぬ脳の研究を、さらに進めるべきだとする。それも一つの見識、といえよう。
精神を切る手術――脳に分け入る科学の歴史 / ぬで島 次郎
精神を切る手術――脳に分け入る科学の歴史
  • 著者:ぬで島 次郎
  • 出版社:岩波書店
  • 装丁:単行本(256ページ)
  • 発売日:2012-05-24
  • ISBN-10:4000258435
  • ISBN-13:978-4000258432
内容紹介:
脳の中を切るロボトミーなどの精神外科は、非人道的な手術として、日本では封印された。しかしそれは、「過去のあやまち」として片付けてよいものではなく、現代の脳科学の研究・臨床とさまざまな形で関わっているのではないか。「精神を切る手術」の歴史から考える、刺激的な脳科学論。

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初出メディア

朝日新聞

朝日新聞 2012年7月15日

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