書評

『ケルベロス第五の首』(国書刊行会)

  • 2017/09/19
ケルベロス第五の首  / ジーン・ウルフ
ケルベロス第五の首
  • 著者:ジーン・ウルフ
  • 翻訳:柳下 毅一郎
  • 出版社:国書刊行会
  • 装丁:単行本(331ページ)
  • 発売日:2004-07-25
  • ISBN:4336045666
内容紹介:
地球より彼方に浮かぶ双子惑星サント・クロアとサント・アンヌ。かつて住んでいた原住種族は植民した人類によって絶滅したと言い伝えられている。しかし異端の説では、何にでも姿を変える能力をもつ彼らは、逆に人類を皆殺しにして人間の形をして人間として生き続けているという…。「名士の館に生まれた少年の回想」「人類学者が採集した惑星の民話」「尋問を受け続ける囚人の記録」という三つの中篇が複雑に交錯し、やがて形作られる一つの大きな物語と立ちのぼる魔法的瞬間-"もっとも重要なSF作家"ジーン・ウルフの最高傑作。
トヨザキ的評価軸:
「金の斧(親を質に入れても買って読め)」
「銀の斧(図書館で借りられたら読めば―)」
「鉄の斧(ブックオフで100円で売っていても読むべからず)」

超ド級の驚きと知的興奮度。幻の作家の最高傑作!

特殊翻訳家・柳下毅一郎さんといえば、わたしのコラムの”上半身”(命名・タキヤンこと滝本誠さん)におわしまするウェイン町山さんの相方、ガース柳下としても著名なお方なんでありますが、その柳下さんの最新翻訳書がすっごぉぉいいんですよ、皆さん! キャサリン・ダンの『異形の愛』(ペヨトル丁房)やJ・G・バラードの『クラッシュ』(ペヨトル工房)など、柳下さんが訳す小説はどれも超イカしてるんだけど、『ケルベロス第五の首』はその特殊翻訳歴の中でも燦然と輝く一冊になること間違いなしなのだ。

異形の愛 / キャサリン・ダン
異形の愛
  • 著者:キャサリン・ダン
  • 翻訳:柳下 毅一郎
  • 出版社:河出書房新社
  • 装丁:単行本(492ページ)
  • 発売日:2017-05-29
  • ISBN:4309207286
内容紹介:
巡業サーカス団長の父と母、アザラシ少年の兄、シャム双子の姉、超能力をもつ弟、そして平凡なわたし……伝説の名作、復活。

ALL REVIEWS経由で書籍を購入いただきますと、書評家に書籍購入価格の0.7~5.6%が還元されます。

クラッシュ / J.G. バラード
クラッシュ
  • 著者:J.G. バラード
  • 翻訳:柳下 毅一郎
  • 出版社:東京創元社
  • 装丁:文庫(246ページ)
  • 発売日:2008-03-24
  • ISBN:4488629121
内容紹介:
六月の夕暮れに起きた交通事故の結果、女医の目の前でその夫を死なせたバラードは、その後、車の衝突と性交の結びつきに異様に固執する人物、ヴォーンにつきまとわれる。理想通りにデザインされた完璧な死のために、夜毎リハーサルを繰り返す男が夢想する、テクノロジーを媒介にした人体損壊とセックスの悪夢的幾何学を描く。バラードの最高傑作との誉れも高い問題作、初文庫化。

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物語の舞台となっているのは、人類が植民して二百年足らずの双子惑星サント・クロアとサント・アンヌ。サント・アンヌにはかつて、姿を自在に変える能力を持った現住種族がいたのだが、植民した人類によって絶滅させられたと言われている。その一方で、実はアンヌ人こそが人類を皆殺しにし、その姿に魅せられたあまり、ついに己の出自を忘れ、人間の形と記憶をまとい、人間として生き続けているという異説もあり――。という基本設定のもと、三つの中篇が収められているのだ。

サント・クロアにある名士の館に生まれた少年の物語である第一話、地球から訪れた人類学者マーシュ博士が採集したアンヌ人の民話である第二話、何の罪に問われているかもわからないまま収監されている、カフカ的な不条理におかれた男の物語を、係官が読む尋問記録や書類、男が綴った日誌などのコラージュで読ませる第三話。異なったスタイルで書かれているため、それぞれ独立しても読める三つの物語は、しかし、登場人物とテーマによって複雑精妙に絡みあっている。

また、双子惑星、クローン、コンピュータによる人格の複製、一卵性双生児、他者へのすり替わり、父親殺しと自分探しなどのエピソードに象徴される“アイデンティティの揺らぎ”というメインテーマが、語りにも敷衍されているのが特徴的。第一話の語り手の少年と、第三話で日誌を綴っているマーシュ博士と思われる男は自分が事実だと信じていることを語っている。ところが、その語りの中から読者は別の真実を読み取ってしまうのだ。語りのアイデンティティすら揺らがせることで、世界の見え方をがらりと一変させてしまう。その驚きと知的興奮度たるや、超ド級なんである。しかも、精緻な伏線を張り巡らせた本格ミステリー(しかし、謎解きのない)としての魅力も併せ持っているのだから、読み応えはさらに倍。幻の作家の最高傑作を読めるようにしてくれた、柳下さんと国書刊行会に三拝九拝すべきでありましょう。

【この書評が収録されている書籍】
正直書評。 / 豊崎 由美
正直書評。
  • 著者:豊崎 由美
  • 出版社:学習研究社
  • 装丁:単行本(228ページ)
  • 発売日:2008-10-00
  • ISBN:4054038727
内容紹介:
親を質に入れても買って読め!図書館で借りられたら読めばー?ブックオフで100円で売っていても読むべからず?!ベストセラーや名作、人気作家の話題作に、金、銀、鉄、3本の斧が振り下ろされる。

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ケルベロス第五の首  / ジーン・ウルフ
ケルベロス第五の首
  • 著者:ジーン・ウルフ
  • 翻訳:柳下 毅一郎
  • 出版社:国書刊行会
  • 装丁:単行本(331ページ)
  • 発売日:2004-07-25
  • ISBN:4336045666
内容紹介:
地球より彼方に浮かぶ双子惑星サント・クロアとサント・アンヌ。かつて住んでいた原住種族は植民した人類によって絶滅したと言い伝えられている。しかし異端の説では、何にでも姿を変える能力をもつ彼らは、逆に人類を皆殺しにして人間の形をして人間として生き続けているという…。「名士の館に生まれた少年の回想」「人類学者が採集した惑星の民話」「尋問を受け続ける囚人の記録」という三つの中篇が複雑に交錯し、やがて形作られる一つの大きな物語と立ちのぼる魔法的瞬間-"もっとも重要なSF作家"ジーン・ウルフの最高傑作。

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初出メディア

TV Bros.

TV Bros. 2004年9月4日

多彩な連載陣のコラムが人気のポップカルチャーTV情報誌。豊﨑由美氏の書評コーナー「帝王切開金の斧」が好評連載中。

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