書評
『新編 物いう小箱』(講談社)
小泉八雲に教えたい怪異譚
私は江戸や中国の怪談が好きで、そんなものを若い頃から一冊、二冊とあつめるように買っていて、時々、引っ張り出してきて読んだりしてるんです。書名をあげた『新編 物いう小箱』は文庫本です。はじめに購入したのは筑摩書房版の単行本で、詩人の吉岡実さんが北斎漫画の絵を配して装丁した、しゃれた本でした。「できれば品切れでない本を」という注文なんで、文庫のほうにしましたが、あるいはこっちも既に絶版かもしれません。
しかし、古本屋やネットで手間ひまかけて購入したとしても、けっしてらくたんしない。とてもおもしろくて味わいのある本です。
同じ森銑三の『十六桜』という小泉八雲の英文を和訳した本も、とてもすばらしい。
まァ、しかし、そのように私が絶賛するのも、こうした味わいの物語や文章を、私が好きだからなので、趣味が違えば「何だこんなもの」と思う人もあるでしょう。
私は、人に本をすすめるのにあまり積極的でないほうですが、自分で好きになった本については、やはり、どうしてもすすめたくなる。まァ、それが好きになるってことなんでしょう。
もともと、沢山(たくさん)本をよむほうじゃないので、あまりすすめる本がないというだけの話です。
森銑三先生というのは、書誌学者、歴史学者で、小説家が歴史ものを書くときに典拠にされるような本を沢山出されています。
ですから、とても沢山の本を読んでいる。その先生が仕事とは別に沢山読んだ本の中から、おもしろかったものを書き留めておいて、『KWAIDAN(怪談)』の作者、小泉八雲に教えてあげたいと思うようなのを選んでまとめたっていうんですから、ずいぶんとぜいたくな話じゃありませんか。
前編に江戸の随筆や怪談を28編。後編に中国の怪異譚(たん)を20編おさめていて、しかも解説や著者の年譜がついて、250ページ足らずなので、つまり一編ずつが、とても短いんです。
いちばん短いもので13行なんてのもあるので、ナイトキャップを飲むようなつもりで、寝る前に一編だけ読む、なんてのもいい。
短いんだけれども、味わいがあって、文章がとてもキレイで上品で、読みおわって、その余韻にふんわりつつまれる。
中国の志怪小説の類いも私の大好物ですが、この本のように選び抜かれた、という風ではない。
しかも、こうしたものにはたいがい類話が多いんですが、森銑三先生の選んだ話というのは、ひとつひとつが、とてもいいんだなあ。ほんとに。
朝日新聞 2013年3月10日
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