書評
『ミシェル・フーコー伝』(新潮社)
フランスの生んだ超一流の哲学者ミシェル・フーコーの、待望久しい伝記の翻訳である。死後七年あまり、神秘のベールに隠されてきた彼の素顔が、この一冊で明らかになった。
著者は腕ききのジャーナリスト。フーコーの膨大な原稿類を読破したのはもちろん、埋もれた資料を数多く発掘、何百人もの関係者に取材するなど徹底した調査を重ねた。サルトル、ラカン、バルト、ドゥルーズ、ブルドューなどの知識人たちが構造主義の台頭やフーコーの系譜学の隆盛をどのように支えたのかを、大学人事の裏事情や手紙のやりとりといったレベルで追体験できるのは驚きである。フーコー研究に欠くことのできぬ基本書となるに違いない。
また、知られることの少なかったフーコーのもうひとつの顔、たとえば国外での生活ぶりや、七〇年代の刑務所改革運動、過激派との接近、イラン革命やボートピープルへの関心などについても、十分ページがさかれている。そして同性愛。若い頃、彼はこの悩みに精神の安定を失って、精神医学と出合った。そして、出世作『狂気の歴史』を著し、『監獄の誕生』など話題作を書きついで、ライフワーク『性現象の歴史』を構想する。アメリカでエイズに感染し、命を落とすことになったのも、同性愛のためだという。
『性現象の歴史』は序章『知への意志』が出てから、なかなか後が続かなかった。構想が二転三転したためだが、その間の経緯が詳しく紹介してあるのも興味深い。そのあと死の直前にようやく『快楽の活用』、『自己への配慮』の二冊が出版された。続刊『肉体の告白』もほぼ完成に近い原稿が残されてあるのだそうで、一日も早い刊行が待たれる。
本書は専門の研究書ではないが、フーコーという稀有な知性の躍動を伝えて余すところがない。翻訳も万全である。原著に付されていたフーコーの著作目録や、研究書・論文のリストなどが採録されていないことだけが惜しまれる。
【この書評が収録されている書籍】
著者は腕ききのジャーナリスト。フーコーの膨大な原稿類を読破したのはもちろん、埋もれた資料を数多く発掘、何百人もの関係者に取材するなど徹底した調査を重ねた。サルトル、ラカン、バルト、ドゥルーズ、ブルドューなどの知識人たちが構造主義の台頭やフーコーの系譜学の隆盛をどのように支えたのかを、大学人事の裏事情や手紙のやりとりといったレベルで追体験できるのは驚きである。フーコー研究に欠くことのできぬ基本書となるに違いない。
また、知られることの少なかったフーコーのもうひとつの顔、たとえば国外での生活ぶりや、七〇年代の刑務所改革運動、過激派との接近、イラン革命やボートピープルへの関心などについても、十分ページがさかれている。そして同性愛。若い頃、彼はこの悩みに精神の安定を失って、精神医学と出合った。そして、出世作『狂気の歴史』を著し、『監獄の誕生』など話題作を書きついで、ライフワーク『性現象の歴史』を構想する。アメリカでエイズに感染し、命を落とすことになったのも、同性愛のためだという。
『性現象の歴史』は序章『知への意志』が出てから、なかなか後が続かなかった。構想が二転三転したためだが、その間の経緯が詳しく紹介してあるのも興味深い。そのあと死の直前にようやく『快楽の活用』、『自己への配慮』の二冊が出版された。続刊『肉体の告白』もほぼ完成に近い原稿が残されてあるのだそうで、一日も早い刊行が待たれる。
本書は専門の研究書ではないが、フーコーという稀有な知性の躍動を伝えて余すところがない。翻訳も万全である。原著に付されていたフーコーの著作目録や、研究書・論文のリストなどが採録されていないことだけが惜しまれる。
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