書評

『今夜も映画で眠れない ポーリン・ケイル集』(東京書籍)

  • 2017/10/12
今夜も映画で眠れない ポーリン・ケイル集  / ポーリン ケイル
今夜も映画で眠れない ポーリン・ケイル集
  • 著者:ポーリン ケイル
  • 出版社:東京書籍
  • 装丁:単行本(311ページ)
  • ISBN:4487761344

ポーリン・ケイルの書評を読みたくないかい

仕事に区切りがついたので、ワープロをオフにして缶ビールを飲んでいた。それでもって、やっぱり手元に本がないと寂しいので買ったまま積みっぱなしになっていたポーリン・ケイルの映画コラム集『今夜も映画で眠れない』(柴田京子訳、東京書籍)をぱらぱらとめくっていたらフィリップ・カウフマン監督の映画「存在の耐えられない軽さ」について書かれているところにぶつかった。原作はミラン・クンデラで、ポーリン・ケイル女史はもちろん原作についても触れていて、そこのところを読んでいるとこんな箇所があった。

小説の魅力(と限界)は、そのヨーロッパ大陸風ダンディズムにある。クンデラは、すぐれた作家として必要な以上に洗練されていた優雅にヨーロッパ的だった。かれは自分のテーマ、モチーフ、逆説を意識しすぎていた。彼は遊び心を擁護する理性的な代弁者だった。そこに問題がある文学的手法としての遊び心ということだ

存在の耐えられない軽さ / ミラン・クンデラ
存在の耐えられない軽さ
  • 著者:ミラン・クンデラ
  • 出版社:集英社
  • 装丁:文庫(399ページ)
  • 発売日:1998-11-01
  • ISBN:4087603512
内容紹介:
本書はチェコ出身の現代ヨーロッパ最大の作家ミラン・クンデラが、パリ亡命時代に発表、たちまち全世界を興奮の渦に巻き込んだ、衝撃的傑作。「プラハの春」とその凋落の時代を背景に、ドン・ファンで優秀な外科医トマーシュと田舎娘テレザ、奔放な画家サビナが辿る、愛の悲劇-。たった一回限りの人生の、かぎりない軽さは、本当に耐えがたいのだろうか?甘美にして哀切。究極の恋愛小説。

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そうなんだよ、ケイルさん。しかし、驚いたなあ。クンデラの作品の書評はずいぶん読んだけど、これぐらい簡潔で正確に書かれたものは読んだ覚えがなかったよ。ぼくは慌てて、他の映画評を読んでみた。もちろん、原作つきのやつばかりを選んでだ。

この本のすばらしいところは、読者が幻想のパワーを感じられることだ。……。小説の大半は同房者ふたりの会話の形で書かれ、そうした著者の声はきこえず、男たちのいっていることの背後にある動機はわかりにくい。しかし、底に秘められたもの――ふたりの男がたがいに利用し合っているという破滅の暗示――はあり、読者はこれを感知するかもしれないし、しないかもしれない(プイグの小説『蜘蛛女のキス』について)

こうしてつむぎ出された物語同様、彼女の「七つのゴシック物語」は、気晴らしの一形態である。あたかも、夜を徹しての不節制という熱に浮かされた雰囲気の中で考え出されたもののように読める(アイザック・ディネーセンの小説について)

本――あるいはその最もすぐれた部分、ざっと最初の三分の一(アリス・ウォーカーの『カラーパープル』について)

若きフォースターは、ヒューマニズムのユートピア的形態に浸っていたものと見える。性愛を聖なる永遠のものと見なし、結婚生活における男女平等を、ロマンティックで神秘主義的な視点でとらえていた。この物語だけいただいて、基本にある哲学的性格(と意味)を振り払ってしまえば、映画作家たちの手に残るのは、ミュージカルコメディとして通用するような軽い本である(E・M・フォースターの『眺めのいい部屋』について)

蜘蛛女のキス  / マヌエル・プイグ
蜘蛛女のキス
  • 著者:マヌエル・プイグ
  • 出版社:集英社
  • 装丁:文庫(461ページ)
  • 発売日:2011-05-20
  • ISBN:4087606236
内容紹介:
ブエノスアイレスの刑務所の監房で同室になった二人、同性愛者のモリーナと革命家バレンティンは映画のストーリーについて語りあうことで夜を過ごしていた。主義主張あらゆる面で正反対の二人だったが、やがてお互いを理解しあい、それぞれが内に秘めていた孤独を分かちあうようになる。両者の心は急速に近づくが-。モリーナの言葉が読む者を濃密な空気に満ちた世界へ誘う。

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カラーパープル  / アリス ウォーカー,柳沢 由実子
カラーパープル
  • 著者:アリス ウォーカー,柳沢 由実子
  • 出版社:集英社
  • 装丁:文庫(362ページ)
  • 発売日:1986-04-01
  • ISBN:408760117X

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眺めのいい部屋  / E.M. Forster
眺めのいい部屋
  • 著者:E.M. Forster
  • 出版社:筑摩書房
  • 装丁:文庫(380ページ)
  • 発売日:2001-09-01
  • ISBN:4480036768

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とまあ、次から次へと原作への言及があるのだが、原作を知っている者にとってはどれも「その通り!」としか言いようがないような書き方なのである。ほんと、すごいわ。

世の中には、読み巧者というような人がいて、そういう人の書評を読むのは楽しいのだが、ポーリン・ケイルを読んでいると、ただの読み巧者ではないことがわかる。それは、もっとも重要と思われる箇所をさっと掴み出して、短く明瞭に書ける能力の持ち主だということだ。根っからの本好きは、どうしても長く書いてしまう。だから、ポーリン・ケイルの書き方は映画的、もしくは映画批評的といわなきゃいけないのだろう。ぼくは彼女の映画評を読んでいて、書評も書いてくれないかなあと思ったんだが。
今夜も映画で眠れない ポーリン・ケイル集  / ポーリン ケイル
今夜も映画で眠れない ポーリン・ケイル集
  • 著者:ポーリン ケイル
  • 出版社:東京書籍
  • 装丁:単行本(311ページ)
  • ISBN:4487761344

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初出メディア

週刊朝日

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