解説
『庄内パラディーゾ―アル・ケッチァーノと美味なる男たち』(文藝春秋)
ひと皿の奇跡が生む地方の再生
共感するちから。著者のノンフィクション作品を読むたび、この言葉を思い起こす。書き手としての懐のふかさから生まれた共感と理解を手だてに、取材対象へ誠実に踏みこんでゆく。山形県鶴岡市のレストラン「アル・ケッチァーノ」オーナーシェフ、奥田政行の料理に驚嘆した著者は、ひと皿のなかに広がる庄内地方の豊かな自然に出合う。「地場イタリアン」とも呼ぶべき味わいの背景には、在来野菜の篤農家、有機農法に取り組む若い生産者、現代農業に挑戦を突きつける個性的な生産者……土地に根を張りながら日々格闘する群像があった。
料理や食、農業にとどまらない。これは自分の仕事に誇りを持ち、暮らす土地に価値やよろこびを発見してゆく庄内の男たちの物語だ。「パラディーゾ」は天国のこと。はたして庄内は天国になりうるか。地方はあらたな息を吹き返すのか。もがきながら道を探る男たちの試みは、がけっぷちの日本に提示されたひとつの回答でもある。
一冊のなかに「パラディーゾ」へみちびく希望の光がある。読む者に、地方再生への連帯をも促すノンフィクションである。
朝日新聞 2009年06月07日
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