書評
『太宰治全集』(筑摩書房)
太宰治の作品
戦争中、太宰治の作品はじぶんのアドレッセンス初葉そのものといってよかった。がさつな戦時体制下に、じぶんもそのがさつさを盛上げるのに加担しながら、いや、加担していたがゆえに、いつも狼狽し、へどもどして、優しい恥をさらしているような太宰治の世界に、心は吸い込まれていった。この逆説的な体験は、わたしに文学が、いつも後ろを向きながら前へすすむ由縁を、おしえてくれた。太宰治の作品がなかったら、戦争は明るい荒廃と暗い健全の世界に似ていた、とおもう。また、かれの作品が、生きて歩んでいったので、敗戦後の明るい健全と暗い荒廃を歩むことができた。太宰が、デカデンツの人として、じぶんを負の十字架上に処刑したとき、わたしのなかで何かが死ぬのを感じた。それからあと、なぜ、生きてこられたのか、じぶんでもよくわからない。いまも、たくさんの死臭を掻きわけながら生きているという思いの奥底に、太宰治の作品が問いかけているような気がする。ALL REVIEWSをフォローする










































