解説
『人魚の石』(徳間書店)
田辺青蛙は新たな次元へ。担当編集の手前味噌
(書き手:徳間書店文芸編集部 鶴田大悟)
田辺青蛙は2006年に作家デビューした後、2008年に「生き屏風」で第15回日本ホラー大賞の短編賞を受賞。その後いくつもの短編集、掌編集を刊行し、怪談作家として評価を受けつつも、長らく沈黙。4年ぶりに発表した待望の新刊がこの『人魚の石』です。祖父の残した廃寺を継ぐべく田舎に戻った日奥由木尾は、そこで珍妙な生物に遭遇します。「うお太郎」という真っ白な自称人魚の男(おっさん)です。うお太郎は、日奥家に代々伝わる石の探し方を教えると嘯きます。それらの石には、記憶を封じる、幽霊を閉じ込める、目玉の代わりになるといった役割があるとのことなのですが、石探しを続けるうち、いつしか、日奥家にまつわる陰惨な過去があきらかとなり……。
真面目な由木尾と剽軽なうお太郎のやり取りでクスリと笑わせてから、中盤には石や怪異に関する民俗学的知見を投入し不穏な空気をまとわせます。そして読者を徹底的に突き放すラストへ。
伝承を奇想小説に昇華させてから絶妙な後味の悪さを残す。この青蛙ワールドともいえる物語のうねりこそが本作の肝です。
改稿いただくたびに背筋が凍る体験をいたしました。このような作品は田辺青蛙にしか書けないと断言します!
奇想、怪談、青蛙ファンの皆様、お待たせいたしました。
本作をもってして、田辺青蛙は新しい次元に突入いたしました。
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