書評

『トラック野郎 浪漫アルバム』(徳間書店)

  • 2020/08/13
トラック野郎 浪漫アルバム / 杉作 J太郎,植地 毅
トラック野郎 浪漫アルバム
  • 著者:杉作 J太郎,植地 毅
  • 出版社:徳間書店
  • 装丁:単行本(239ページ)
  • 発売日:2014-04-08
  • ISBN-10:419863792X
  • ISBN-13:978-4198637927
内容紹介:
ギャグ、スピード、アクション、涙が満載! 東映の人気シリーズ「トラック野郎」の魅力をギュッと凝縮した超娯楽本、出発進行!

杉作J太郎、植地毅の「浪漫アルバム」シリーズが復活!

痒いところをかきむしるような、執拗な編集は健在。『トラック野郎』への愛があふれる1冊

映画についての本は愛の表明である。どんなに詳細に分析し、スタッフやキャストすら思いもつかなかった「真実」を喝破したとしても、どこまでいこうとそれは映画そのものには及ばない。映画を観たときの感動を越えることは決してないのだ。それがわかっていながらも、どうしても映画のことを語ってしまう。それを愛と言わずしてなんというべきか。

中でも、杉作J太郎・植地毅編集による徳間書店の「浪漫アルバム」シリーズほど、愛の深さを感じさせてくれる本はない。杉作による編集後記を読むだけで、誰もがそれを感じるだろう。

もう、待っても待っても船は来ないのかもしれない。そう思いながらも、実は待っていた。映画『キル・ビル2』。荒野のトレーラーハウス、エロ本読んで毎日ゴロ寝しながらも刀だけは磨いていたビルの弟のように。生まれた時は別々でも、死ぬ時は一緒だ、みたいな言い回しが世の中にはありますが、僕たちにとって、この一冊、ひとつの死に場所なのかもしれません。あの頃。ぼくは四国、松山で中学生だった。トラック野郎を上映していた映画館の中は爆笑に沸きかえり、いまから御輿が出るような騒ぎだった。

『仁義なき戦い』『東映ピンキー・バイオレンス』に続く3冊目、10数年ぶりの復活は『トラック野郎浪漫アルバム』である。菅原文太&愛川欽也主演、鈴木則文監督のトラック野郎シリーズは70年代東映の屋台骨を支えた大ヒット作である。映画が祭りだというなら、これこそが映画である。天才鈴木則文のすべてが注ぎこまれたこの大傑作シリーズは奇跡のように今なお愛され、ファンを増やしつづけている。ギンギラギンのデコトラは祭りの御輿よろしく日本中の銀幕を走り抜け、スクリーン前の観客を踊らせた。その観客は、その子供たちは、今もなお祭りが忘れられず、踊りつづけている。

この本に集まったのはそんな純粋にトラック野郎を愛する連中だ。「浪漫アルバム」シリーズの痒いところをかきむしるような執拗な編集は健在で、シリーズ作品のありとあらゆるディテールが画面撮りで紹介される。画面の隅に顔が3秒くらい写るだけ……みたいなキャストすらもきっちり見つけだして画面キャプチャしている完全主義。配役表には(*出演なし)(*クレジットなし)という注意書きまでついており、どこまで綿密に調査したのかと空恐ろしくなる(「出演なし」は撮影後、なんらかの都合で出演シーンがカットされてしまった俳優のことであろう)。

詳細すぎるストーリーと出演していない俳優まで含めたスタッフ・キャスト表だけでも充分なくらいだが、本当の意味で愛があふれだすのはその先、関係者へのインタビューである。このシリーズをこよなく愛しているキンキンが登場するのは当然だが、これまでインタビューを断り続けてきた文太も登場、忘れられがちの三番星玉三郎ことせんだみつおも加えてトラック野郎が3人勢揃いという豪華版である。

第1作のヒロインとなった美女・中島ゆたかへのインタビューでは、東映京都撮影所がいかに恐ろしい場所であったかが語られる。彼女が京撮の映画に出演することになったとき「京都に行くと、女優がもう大変なことになって帰ってくるから、絶対行かないほうがいい!」と周囲の人から止められたのだという。いったいどんな場所だというのか。

そしてシリーズを作りあげた2人の脚本家、澤井信一郎と掛札昌裕へのインタビューでは、監督鈴木則文とプロデューサー天尾完次という2人への敬愛が問わず語りに語られ、そこがいかにすばらしい現場だったかが示されるのである。澤井信一郎は第1作のフォーマットについて訊ねられて「あれ、寅さんのマネだから」と身も蓋もない答えを返す。どこまでも出鱈目で、どこまでも豪快で、それが『トラック野郎』なのである。

この本を読めばどうしても本棚のDVDを引っ張り出さずにいられないのだが、ぼくが見たくなったのは『~北へ帰る』である。実は大谷直子こそ、桃さんが結ばれるべきマドンナだったような気がしてならないのだ。そんな誰も興味のない個人的な思いまで話したくなる……それもまた愛というべきか。
トラック野郎 浪漫アルバム / 杉作 J太郎,植地 毅
トラック野郎 浪漫アルバム
  • 著者:杉作 J太郎,植地 毅
  • 出版社:徳間書店
  • 装丁:単行本(239ページ)
  • 発売日:2014-04-08
  • ISBN-10:419863792X
  • ISBN-13:978-4198637927
内容紹介:
ギャグ、スピード、アクション、涙が満載! 東映の人気シリーズ「トラック野郎」の魅力をギュッと凝縮した超娯楽本、出発進行!

ALL REVIEWS経由で書籍を購入いただきますと、書評家に書籍購入価格の0.7~5.6%が還元されます。

初出メディア

映画秘宝

映画秘宝 2014年7月号

95年に町山智浩が創刊。娯楽映画に的を絞ったマニア向け映画雑誌。「柳下毅一郎の新刊レビュー」連載中。洋泉社より1,000円+税にて毎月21日発売。Twitter:@eigahiho

  • 週に1度お届けする書評ダイジェスト!
  • 「新しい書評のあり方」を探すALL REVIEWSのファンクラブ
関連記事
柳下 毅一郎の書評/解説/選評
ページトップへ