書評

『図書館 愛書家の楽園[新装版]』(白水社)

  • 2018/06/18
図書館 愛書家の楽園[新装版] / アルベルト・マンゲル
図書館 愛書家の楽園[新装版]
  • 著者:アルベルト・マンゲル
  • 出版社:白水社
  • 装丁:単行本(340ページ)
  • 発売日:2018-06-15
  • ISBN:4560096449
内容紹介:
アレクサンドリア図書館、ネモ船長の図書室、ヒトラーの蔵書、ボルヘスの書棚……古今東西、現実と架空の〈書物の宇宙〉をめぐる旅。

「原始の夢」の過去・現在・未来つなぐ

もとより人間にはふたつの望みがあった。ひとつははるか高みにまで手を伸ばし、空間を征服する欲望であり、そこからバベルの塔が建てられ、その罰として言葉をばらばらにされた。もうひとつはそのあらゆる言語による書物を集め、時間を超越する欲望であり、そこからエジプトのアレクサンドリア図書館が生まれた。図書館とは人間の原始の夢だ!

シルクロードの莫高窟(ばっこうくつ)に700年間埋もれていた中国の仏教文書館には、5万巻におよぶ文献と絵画が所蔵されていたし、一方、ナチ収容所にこっそり作られた図書室には10冊ほどの本しかなかったが、現代のNYでは自宅で本の山が崩れて2日間「生き埋め」になった男が消防士に救出され、グーグル・プロジェクトなどのバーチャル図書館が誕生する一方、コロンビアの農村部にはロバによる巡回図書館がある。本書はそれのみならずバベルの図書館やネモ船長の書棚等々、古今東西、現実と架空、リアルとバーチャルの図書館を数々紹介して、その書棚に遊ぶ。

2世紀のアレクサンドリア図書館ではすでに、「一冊の本はこの世界を抽出し、要約したものである」「ある種の本は後世に書かれる本の予兆だ」という、後のルイス・キャロルやボルヘスに通じる考えが確立していた。「ある意味、記憶と図書館は同義だった」と書く著者は、集積しただけの知識は知識にならないとして、叡智(えいち)の有機的な連鎖、融合、蓄積を重視する。今話題の水村美苗『日本語が亡(ほろ)びるとき』はウェブ図書館が英語だけに偏って有利な点を指摘しているが、マングェルはそれに加え、「画面上に呼び出されたテキストには過去がない」「悪夢のように、どこまでも現在でありつづける」点を憂慮し、現代人は「過去が滅びゆくさまを目の当たりにしている」のだと言う。愛書家の愛に溢(あふ)れるが故の厳しい批評であり、その願いは紙と電子媒体の共栄にある。

シビアな目と遊び心を兼ね備え、図書館の過去と現在と未来を繋(つな)ぐ実り豊かな一冊だ。人間の「知」のあり方が問われている。

※ALL REVIEWS事務局注:本書評は執筆時期2008年、旧版へのものです。

【この書評が収録されている書籍】
本の寄り道 / 鴻巣 友季子
本の寄り道
  • 著者:鴻巣 友季子
  • 出版社:河出書房新社
  • 装丁:単行本(309ページ)
  • 発売日:2011-10-08
  • ISBN:4309020674
内容紹介:
翻訳家にして稀代の書評家、初の書評集。日本発&海外発のおすすめ240冊。

ALL REVIEWS経由で書籍を購入いただきますと、書評家に書籍購入価格の0.7~5.6%が還元されます。

図書館 愛書家の楽園[新装版] / アルベルト・マンゲル
図書館 愛書家の楽園[新装版]
  • 著者:アルベルト・マンゲル
  • 出版社:白水社
  • 装丁:単行本(340ページ)
  • 発売日:2018-06-15
  • ISBN:4560096449
内容紹介:
アレクサンドリア図書館、ネモ船長の図書室、ヒトラーの蔵書、ボルヘスの書棚……古今東西、現実と架空の〈書物の宇宙〉をめぐる旅。

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初出メディア

朝日新聞

朝日新聞 2008年11月30日

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