書評
『神なき死―ミッテラン、最後の日々』(春秋社)
大統領の「闘病」を追う
フランス共和国大統領の任期は七年である。フランソワ・ミッテランは二期、十四年間にわたってその大統領職にあった。日本の首相職の短命ぶりを思いあわせれば、これがどれほど長期の君臨ぶりか知れようというものである。王様か皇帝並みのその長期君臨のあいだに、ミッテランはパリ大改造をやってのけた。デファンス地区に出現した新凱旋(がいせん)門や、ルーブル宮のガラスのピラミッドは、世界の話題をさらった。古都パリの顔を一変させたという点では、ミッテランはまさにナポレオン三世以来の"偉人"である。
しかし実はこの人、一九八一年十一月、大統領に就任してわずか半年で、自分が前立腺(せん)がんに侵されているのを知ったのだという。このことを彼はただちに国家機密とするよう命じた。こうしてミッテランはがん患者として七年間の激職を務めあげ、主治医にはうその診断書を書かせつづけた末、二期目の選挙にも出馬して当選した。超人的と評するほかない。
そのしぶといミッテランに、負けず劣らずしぶといジャーナリストが長いこと密着取材を試みた。著者ジズベールは二十二年前、ミッテランの評伝を出版し、一九九〇年以降、この大統領をタネに第二弾、第三弾を放っている。
では今度の本は何なのか。病魔と闘いながら死んでいくミッテラン。それが主題だ。相互に、愛と憎しみというに近い本心を――さらけだすのではなく、フランス人特有のダンディズムに包んだ上で、機知とアイロニーのかぎりを尽くしつつ"権力"をめぐる容赦のない"ディベート"を展開する。
ミッテランは言葉を持っていた。あふれ出て止まらないほど豊富に。フランスの政治家はみんなそうだ。文学も歴史も美術もすさまじい勉強の果てに、しっかり身につけている。彼らこそは強敵の名にふさわしい。そのことを確認できる本である。
ALL REVIEWSをフォローする







































