書評

『初山滋―永遠のモダニスト』(河出書房新社)

  • 2018/09/23
初山滋―永遠のモダニスト / 竹迫 祐子
初山滋―永遠のモダニスト
  • 著者:竹迫 祐子
  • 出版社:河出書房新社
  • 装丁:単行本(159ページ)
  • 発売日:2007-11-01
  • ISBN-10:430972762X
  • ISBN-13:978-4309727622
内容紹介:
大正から昭和にかけて子どもの本の世界で活躍した画家・初山滋。その流麗な線と美しく繊細な色彩は、人々を魅了し、後人に限りない影響を与えた。天才の画業をたどるはじめての1冊。
生まれてもいないのに、戦前昭和(つまり一九二〇年代後半から三〇年代)のモダニズム文化に郷愁のようなものを感じる。その時代の映画、美術、ファッション、雑貨などにたまらなく惹かれる。

当然、初山滋の絵が好き。一九八五年、書店の棚に『別冊太陽 初山滋――線と色彩の詩人』という大判の作品を発見した時は「待ってました!」とばかり買った。初山滋は絵ばかりではなく装丁や版画なども手がけていたこと、もともとは日本画や友禅模様の職人としての修業をした人だということを知った。

私は初山滋の絵の中でもロマンティックな童画よりも、線が明快簡潔でマンガぽい絵のほうが好きで、マンガ『たべるトンちゃん』(昭和十二年)の一部を私の本の表紙に使わせてもらったこともある(二〇〇五年に出版した『甘茶日記』という本です)……なあんて私事ばかり書き連ねてしまった。好きなもんで、つい。

さて先日。書店に『初山滋 永遠のモダニスト』(河出書房新社)という本を発見。二〇〇七年十一月から二〇〇八年五月にかけての「初山滋大回顧展」に合わせて出版されたもののようだ。

当然ながら掲載作品は以前の『別冊太陽』版と重なるものがあるわけだが、巻末に長男・初山斗作(とさく)さんのエッセーが掲載されているのがうれしい。このエッセーがとてもいい感じなのよ。初山滋という人物の得難い魅力を、ふんわりとした調子でありながら鮮かに描き出している。

最後の画集の、最後のページに書かれた言葉は「護美(ゴミ)溜まった」だったというエピソードがいい。斗作さんは「『オレは、ゴミを残して、おさらばするヨ』と言いた気(げ)の、絵のような、踊るような文字でした」と書いている。

武井武雄や恩地孝四郎との交友について書かれているのも、戦前昭和モダニズム好きの身には、なんと魅力的な人脈と、うれしい。斗作さんによると、「(初山滋にとっての)童画のパイオニアが武井さんなら、〈創作版画〉のパイオニアは恩地さん」。

少年時代の斗作さんの目から見た武井武雄は「トランプの中の、愉快な王様(キング)でした」。世間では武井ファンと初山ファンとに分かれ、ライバルのように言われていたけれど、当人同士は敬愛しあっていたようだ。「オヤジのお葬式の日、雨でした。武井さんは、泣いていた」という短い文章にホロリとさせられた。

二十二年前、『別冊太陽』版を買った頃と今とでは、私の好みも少し変わって来ていて、今回の本では初山滋が戦後に熱中した版画作品がとてもいいと思った。特に、七十歳の頃の版画絵本『もず』。とにかく書店で手に取って眺めてみてください。
初山滋―永遠のモダニスト / 竹迫 祐子
初山滋―永遠のモダニスト
  • 著者:竹迫 祐子
  • 出版社:河出書房新社
  • 装丁:単行本(159ページ)
  • 発売日:2007-11-01
  • ISBN-10:430972762X
  • ISBN-13:978-4309727622
内容紹介:
大正から昭和にかけて子どもの本の世界で活躍した画家・初山滋。その流麗な線と美しく繊細な色彩は、人々を魅了し、後人に限りない影響を与えた。天才の画業をたどるはじめての1冊。

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婦人画報 2008年3月号

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