湯上りの天女のような……というのは、蓮の花の匂いを私が形容したのである。
天女を見たことはないし、ましてその湯上りのところを嗅いだこともないけれども、蓮好きの私はこのたとえをひどく気に入っている。
毎年、夏の盛りに蓮の香りを聞きにいく。蓮の花というのは、何度見ても、何処をとっても飽きない美しさである。つぼみも花も、花托も実も、葉も露もすべてが美しい。
そして、その匂いは、深遠に不思議に、上品に色っぽい。つまり、湯上りの天女のようなのだった。
鈴木薫さんの撮られた蓮の写真は、この陶然とする蓮の匂いを写している。
匂うということばは、もともと美しい色を指したものというけれども、いかにも蓮に相応しい。匂いたつその美しさに、作者が素直に感動してシャッターを切ったのがまっすぐに伝わってきた。
そう! このように蓮は美しいのだ。と私は思って何度も何度も、繰り返して聞いた頁(ページ)に見入ってしまう。
こんなに綺麗な花に出会う才能。これほどまでにその花を再現できる技と情熱。一度でも蓮の花の写真を撮ってみたことのある人には、この写真集のただならぬことは明らかだ。極上の写真集である。