書評

『新悪魔が憐れむ歌』(洋泉社)

  • 2018/10/25
新悪魔が憐れむ歌 / 高橋 ヨシキ
新悪魔が憐れむ歌
  • 著者:高橋 ヨシキ
  • 出版社:洋泉社
  • 装丁:単行本(ソフトカバー)(253ページ)
  • 発売日:2017-07-19
  • ISBN:4800312833
内容紹介:
世界一美しい女子高生の死体の謎から『マッドマックス/怒りのデス・ロード』、『シン・ゴジラ』まで、信じられないほどに異様な映画の世界を切り刻み、素晴らしくも奇妙な世界を開示する気鋭のサタニスト、映画論集第三弾!

シリーズ3冊目は、最初と最後が『ツイン・ピークス』評論のサンドウィッチ

打ち捨てられ、誰も顧みない――そこにこそ真実があるという力強い誇りの表現

何が素晴らしいって、読み終えた瞬間の感動である。最終ページを見たときに思わずやられた!と笑ってしまった。このセンスには脱帽するしかない。何がどうなっているのかはぜひ本屋でその目で確認してほしいのだが――これはつまり読んだあとは打ち捨てられ、読み捨てられてもかまわないし、むしろそうされるべきでさえあるというメッセージだろう。これはそうした文化現象――打ち捨てられ、誰も顧みないようなもの――の側に立つというスタンスの表明であり、同時にそこにこそ真実があるという力強い誇りの表現でもある。こうでなければいけない。

本書は『映画秘宝』本誌のアート・ディレクターである高橋ヨシキの評論集である。『悪魔を憐れむ歌』というシリーズ・タイトルで出版されている評論集も3冊目、微妙にリニューアルが入って副題「美人薄命」が入り、いよいよシリーズ化も佳境に入ってきた勝負どころの趣がある。その副題通り、表紙には「世界でいちばん美しい死体」ローラ・パーマーの顔がうっすらと浮かび、本書の最初と最後は『ツイン・ピークス The Return』こと『ツイン・ピークス』シーズン3の評論でサンドウィッチする構成で、まさに今燃え上がる『ツイン・ピークス』熱をここぞとばかりに煽りまくる熱情的1冊となっている。

「美人薄命」とはローラ・パーマーだけのことではない。ここにはたとえば、ヴァンパイラの人生をたどった評伝が載っている。元祖ホラー・ホステスとして、TVにおけるホラー映画の解説役という新しい役回りを作りだした彼女だったが(大げさな言い方をすれば、それはひとつのパラダイムの創設だと言ってもいいかもしれない)、あまりに時代に先んじ、過激すぎたために(おそらくは「セクシーすぎる」と見なされたのではなかろうか)、正当な評価を受けることなく貧困に沈まなければならなかった。

あるいは魔女狩りについて書かれた章も「美人薄命」というタイトルにふさわしいかもしれない。17世紀にマサチューセッツ植民地のセイラムで起こった魔女狩り騒動では、少女たちが悪魔に憑かれ、苦しみはじめたのがすべてのきっかけとなったからである。つねに犠牲者となるのは女性だ。ならば『マッドマックス 怒りのデス・ロード』(15年)にちなむジョージ・ミラーへのインタビューも......そこはさすがに薄命とは言いがたいものがあるが。

それ以外は『映画秘宝』などに掲載された短評や監督インタビューを中心に、個人メルマガで発表した原稿なども加筆されて収録されているようである(残念ながら初出についての記録がないのである)。高橋ヨシキの本なら入らないわけにはいかないジョエル・M・リードとロブ・ゾンビについての評論ももちろん載っている。私見では、どうもビルの1/2階の穴を通じてロブ・ゾンビと高橋ヨシキの脳はつながっているようなので、この2人はどうやら同じことを考えている。つまり、高橋ヨシキが映画について考えるというのはロブ・ゾンビのことを考えるということなのだ。『ブラッドサッキング・フリークス』(74年)の監督ジョエル・M・リードへの世にもくだらないインタビューまでもが収録されている。

くだらないのは食い足りなさではない(これはもっと別なものだ)が、いっぽうで食い足りないところもあって、魔女狩りについての原稿を読むほどにやはり魔女狩りと悪魔祓いにまつわる映画的表現についてまとまったものを書いてほしい、という思いにかられるのである。

おもしろいのは『シン・ゴジラ』(16年)について書かれた評論で、あの映画のなかには葛藤がないという指摘はまことに当を得たものである。それが新しい映画のかたちなのかどうかは、意見の割れるところかもしれない。だが、もっとも興味深いのは、もちろん本全体を包んでいる『ツイン・ピークス』とその呪いについての文章だ。「世界でいちばん美しい自殺死体」をはじめとする『ツイン・ピークス』の元ネタはどれも興味深く、シリーズを観返さざるをえない気にさせてくれるのである。
新悪魔が憐れむ歌 / 高橋 ヨシキ
新悪魔が憐れむ歌
  • 著者:高橋 ヨシキ
  • 出版社:洋泉社
  • 装丁:単行本(ソフトカバー)(253ページ)
  • 発売日:2017-07-19
  • ISBN:4800312833
内容紹介:
世界一美しい女子高生の死体の謎から『マッドマックス/怒りのデス・ロード』、『シン・ゴジラ』まで、信じられないほどに異様な映画の世界を切り刻み、素晴らしくも奇妙な世界を開示する気鋭のサタニスト、映画論集第三弾!

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初出メディア

映画秘宝

映画秘宝 2017年9月

95年に町山智浩が創刊。娯楽映画に的を絞ったマニア向け映画雑誌。「柳下毅一郎の新刊レビュー」連載中。洋泉社より1,000円+税にて毎月21日発売。Twitter:@eigahiho

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