書評

『鶏が鳴く』(講談社)

  • 2020/04/12
鶏が鳴く / 波多野 陸
鶏が鳴く
  • 著者:波多野 陸
  • 出版社:講談社
  • 装丁:単行本(ソフトカバー)(178ページ)
  • 発売日:2013-08-23
  • ISBN-10:4062184737
  • ISBN-13:978-4062184731
内容紹介:
引きこもりの健吾と彼のことが気に入らない伸太の深夜の対決。息苦しいまでの自意識のと溢れる熱気。第56回群像新人賞賞受賞作!

対話の条件

表面的には単純な小説である。険悪な関係にある男子高校生二人が、深夜に腹を割って本音をぶつけ合い、己の、そして相手の精神に対する洞察を深く働かせ、真の友情に至る。ありえねーと一蹴されそうな、旧制高校の寮を舞台にした対話小説のようだが(実際にそんな小説があったかは知りませんが)、眼目は、現代では絵空事でしかありえないそのような濃密なコミュニケーションを、一応の必然性とリアリティをもって描き出すことを可能ならしめている舞台装置にある。

杉本伸太と二階堂健吾は同じ高校に通い、バンドも組んでいたが、健吾は不登校の引きこもりになりバンドの練習にも来なくなる。伸太と健吾はバンドのもう一人のメンバー峰正輝を介しての関係で、小学校の頃から知っているものの親しくはなく、伸太は健吾をむしろ見下していた。不登校になって以降の健吾と伸太は連絡を絶っていたが、正輝に健吾の様子を尋ねたところ、健吾が正輝に宛てた携帯メールが転送されてきた。そこには「杉本君はどうしても苦手だし、というか嫌いだし、ムカつくしさ」と書かれていた。また伸太は健吾の元カノと親しくなっており、健吾が彼女に送った酷い文面の別れのメールも入手していた。健吾の曲ばかりが褒められること、友人の彼女を寝取ることに背徳的な悦びを覚えていたのに、先手を打つように健吾が彼女を捨てたことなどから、自分の優位性が揺らいだように感じた伸太は、優越を確かにするために健吾の部屋に忍び込み驚かす計画を立てる。

健吾の部屋は、マンション三階にある3LDKの一室だ。伸太は健吾が留守になる時を調べてあった。むろん奇襲で優勢に立つためだ。さほど高級でないマンションの一室。その狭い閉空間で深夜に、演技で自意識を守った高三男子二人が夜通しサシで延々と駆け引きをするのである。まあ、中二病というやつで、伸太は斜に構え系、健吾は観念肥大系だが、内実は大差なく症状が違うにすぎない。

伸太も健吾もスマホでなく携帯電話で、健吾はPCを持っているが伸太は持っていない。健吾はPCを、CDやDVDをかけたりエロ動画を見ることにしか使っていない。つまり、斜に構え系にとっても観念肥大系にとっても自意識を守るのに不可欠というべきSNS、すなわちツイッターもフェイスブックもラインも、この小説からは入念に排除されているのだ(朝井リョウ『何者』と比較されたし)。このささやかだが思い切った仕掛けによって、二人の自意識はマンションの一室に存分に充満でき、そしてガチでぶつかり合うのである。
鶏が鳴く / 波多野 陸
鶏が鳴く
  • 著者:波多野 陸
  • 出版社:講談社
  • 装丁:単行本(ソフトカバー)(178ページ)
  • 発売日:2013-08-23
  • ISBN-10:4062184737
  • ISBN-13:978-4062184731
内容紹介:
引きこもりの健吾と彼のことが気に入らない伸太の深夜の対決。息苦しいまでの自意識のと溢れる熱気。第56回群像新人賞賞受賞作!

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すばる

すばる 2013年11月号

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