書評

『江戸暮らしの内側-快適で平和に生きる知恵』(中央公論新社)

  • 2019/06/08
江戸暮らしの内側-快適で平和に生きる知恵 / 森田 健司
江戸暮らしの内側-快適で平和に生きる知恵
  • 著者:森田 健司
  • 出版社:中央公論新社
  • 装丁:新書(204ページ)
  • 発売日:2019-01-09
  • ISBN-10:4121506421
  • ISBN-13:978-4121506429
内容紹介:
少ない物的資源を有効に使い、無駄なく再利用していたこと。狭くプライバシーも制限された住居に暮らしつつも、近隣の人々とうまく付き合い、和やかな人間関係を築いていたこと。そして、しっ… もっと読む
少ない物的資源を有効に使い、無駄なく再利用していたこと。狭くプライバシーも制限された住居に暮らしつつも、近隣の人々とうまく付き合い、和やかな人間関係を築いていたこと。そして、しっかりした教育を受け、よく本を読んでいたこと。「与えられた場で懸命に生きる」人生を自然に送っていたこと。こうした江戸庶民の生の「内側」を幅広く捉え、さまざまなエピソードとともに本書は紹介していきます。衣食住はもちろん、教育や出版、そして生老病死まで江戸庶民の「内側」を活写。江戸庶民のあり方は二一世紀に暮らす私たちにとって、「生きた」知恵の宝庫です。図版多数。

明日への希望によって庶民の社会が成立した

人間は時間軸にそって暮らしやすさを獲得していくのだと、ぼくは考えている。古代はロマンだと過大評価する人がいるがそれは誤りだ。大まかに見れば、すべてに未熟な古代より人の息吹が感じられるようになる中世、争いの中世より平和な近世、世襲ばかりで息の詰まる近世より自由で平等な近現代がすぐれている。もちろん太平洋戦争では300万人あまりの未曽有の犠牲者が出ているではないかという指摘はあるだろうが、それを含めて、人は昨日の過ちを反省しながら賢くなるのだと思う。

そうした視点をもつぼくは、森田さんの考え方にふれ、まさにその通り、と思わず膝を叩(たた)いた。江戸時代の特徴は一に平和である、と森田さんは言う。それまでの動乱が終息して平和になったからこそ、人々は「明日」を考えられるようになる。親は子どもに教育を受けさせ、親方は弟子に技術を伝える。そうした明日のための投資の結果、一般庶民が主役の社会が形成される。思想家・石田梅岩(ばいがん)が言うように、各々が職分を全うして平和な生活を守り育てる。それが江戸の社会の基調なのだ……。実に明快な理論である。

そうは言っても、現代に比べれば、江戸時代はさまざまな点で貧しい。平均寿命はおそらく30代。制約も厳しい。でも人々は限られた資源を有効に活用して、暮らしに工夫を与えていた。その様子を「住・食・衣」の順に見ていきながら、やがて「生・老・病・死」という観念的な考察に進んでいく。

歴史は教科書に出てくる英雄が作るものではない。英雄たちは、多くの名もない人々の意志によって動かされているのだ。この意味で歴史の主役は、一般の民衆に他ならない。そのことを楽しく、しかし着実に教えてくれる本である。
江戸暮らしの内側-快適で平和に生きる知恵 / 森田 健司
江戸暮らしの内側-快適で平和に生きる知恵
  • 著者:森田 健司
  • 出版社:中央公論新社
  • 装丁:新書(204ページ)
  • 発売日:2019-01-09
  • ISBN-10:4121506421
  • ISBN-13:978-4121506429
内容紹介:
少ない物的資源を有効に使い、無駄なく再利用していたこと。狭くプライバシーも制限された住居に暮らしつつも、近隣の人々とうまく付き合い、和やかな人間関係を築いていたこと。そして、しっ… もっと読む
少ない物的資源を有効に使い、無駄なく再利用していたこと。狭くプライバシーも制限された住居に暮らしつつも、近隣の人々とうまく付き合い、和やかな人間関係を築いていたこと。そして、しっかりした教育を受け、よく本を読んでいたこと。「与えられた場で懸命に生きる」人生を自然に送っていたこと。こうした江戸庶民の生の「内側」を幅広く捉え、さまざまなエピソードとともに本書は紹介していきます。衣食住はもちろん、教育や出版、そして生老病死まで江戸庶民の「内側」を活写。江戸庶民のあり方は二一世紀に暮らす私たちにとって、「生きた」知恵の宝庫です。図版多数。

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初出メディア

サンデー毎日

サンデー毎日 2019年2月24日号

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