自著解説

『ゴーストバスターズ 冒険小説』(講談社)

  • 2022/01/01
ゴーストバスターズ 冒険小説 / 高橋 源一郎
ゴーストバスターズ 冒険小説
  • 著者:高橋 源一郎
  • 出版社:講談社
  • 装丁:文庫(416ページ)
  • 発売日:2010-04-09
  • ISBN-10:4062900831
  • ISBN-13:978-4062900836
内容紹介:
謎のゴーストを探し求めてアメリカ横断の旅に出るブッチ・キャシディとサンダンス・キッド。そしてBA‐SHOとSO‐RAもアメリカを旅し、「俳句鉄道888」で、失踪した叔父を探すドン・キホーテの姪… もっと読む
謎のゴーストを探し求めてアメリカ横断の旅に出るブッチ・キャシディとサンダンス・キッド。そしてBA‐SHOとSO‐RAもアメリカを旅し、「俳句鉄道888」で、失踪した叔父を探すドン・キホーテの姪と巡り合う。東京の空を飛ぶ「正義の味方」超人マン・タカハシは、ついにゴーストからの呼び出しを受ける…。隠されたゴーストの正体とは?時空を超え、夢と現を超え、疾走する冒険小説。

『ゴーストバスターズ』脱稿

どうもいまちゃんとした文章が書けそうにないので、そこのところはお許し願いたい。つい昨日、九年ぶり(?)の長編小説『ゴーストバスターズ』が脱稿し、極端な虚脱状態に陥ったまま抜け出せないのである。ただもうひたすら眠い。リヴィングでテレビを見ている……と、いつの間にか寝ている。トイレで便器に座っている……と、いつの間にか寝ている。晩飯を食べ……ながら、寝ている。電話で誰かと話しながら……「どうしたの?」といわれ、目が覚める。いかん、いかん、いかん。来たばかりの「ビッグコミックスピリッツ」を読もうと手にとる……と雑誌が手からドスッと落ちる。それから、やたらと腹が減るのである。起きている間はずっと食べっ放しじゃないだろうか。いまも、ドーナツを食べながらこの原稿を書いているところ。もしかしたら、わたしは現在「壊れている」のかもしれない。

『ゴーストバスターズ』を最初に依頼されたのは、『さようなら、ギャングたち』でデビューした直後のことだから、いまからざっと十五、六、七年前になる。依頼したAさんは当時、雑誌「群像」の編集者だったが、編集長を経て、現在は局長をなさっている。会う度にいわれた「いくらなんでも、わたしが定年になるまでには完成してくださいよ」の台詞ももう聞かずにすむ。いや、いわずにすむAさんの方がホッとしたかな。

もちろん、ワープロを使った。ワープロでは章ごとの書き始めの日付も記録されている。いちばん古い日付は一九九〇年七月十四日。その年の正月から書き出していたはずだから、半年分の原稿はどうなってしまったのだろう。

『ゴーストバスターズ』を書き始めた時決めていたのは、こんなことだった。

① 世界全部を入れる
② 歴史全部を入れる
③ 愛と友情と哀しみを入れる
④ 読んでひたすら面白い
⑤ なおかつ、今世紀末の日本文学を代表する(!)
⑥ 同時に、今世紀末の世界文学を代表する(!)
⑦ そればかりか、二十一世紀の文学を予言する(!)

笑うなかれ。その結果がどうであったかは、これから読者のみなさんに判断していただきたい。けれど、ぼくの能力は出し尽くしたような気がする。いま、これ以上のものは書けません。

この小説は、アメリカ西部に住むふたりのガンマンが、東部で跳梁跋扈しているという「ゴースト」についての無数の噂話を聞くところからはじまる。いったい「ゴースト」とは何なのか? 「ゴースト」にまつわる事件は多いのに、それを実際に見た者はどこにもいないのだ。かくして、ふたりのガンマンの「ゴースト」探しの旅が開始される……。だが、「ゴースト」を探していたのは彼らだけではなかった。あちらにもひとり、こちらにもひとり。しかし、「ゴースト」の正体を知っている者だけはどこにもいなかったのである。苦難の旅の果てに、彼らはついに「ゴースト」と巡り合う。果たして「ゴースト」の正体とは?

結局のところ、ここ、六、七年ぼくはずっと、誰も書いたことのない、誰も思いつかなかった「ゴースト」を創り出そうと努めていたことになる。書ききれなかったことは多いが、それは作者の能力の問題だから仕方あるまい。とにかく、「ゴースト」たちとの付き合いは終わってしまったのだ。バイバイ、ぼくのゴーストたち。ありがとう。また、いつか会える日が来るのを楽しみに。

【この自著解説が収録されている書籍】
退屈な読書 / 高橋 源一郎
退屈な読書
  • 著者:高橋 源一郎
  • 出版社:朝日新聞社
  • 装丁:単行本(253ページ)
  • 発売日:1999-03-00
  • ISBN-13:978-4022573759
内容紹介:
死んでもいい、本のためなら…。すべての本好きに贈る世界でいちばん過激な読書録。

ALL REVIEWS経由で書籍を購入いただきますと、書評家に書籍購入価格の0.7~5.6%が還元されます。

ゴーストバスターズ 冒険小説 / 高橋 源一郎
ゴーストバスターズ 冒険小説
  • 著者:高橋 源一郎
  • 出版社:講談社
  • 装丁:文庫(416ページ)
  • 発売日:2010-04-09
  • ISBN-10:4062900831
  • ISBN-13:978-4062900836
内容紹介:
謎のゴーストを探し求めてアメリカ横断の旅に出るブッチ・キャシディとサンダンス・キッド。そしてBA‐SHOとSO‐RAもアメリカを旅し、「俳句鉄道888」で、失踪した叔父を探すドン・キホーテの姪… もっと読む
謎のゴーストを探し求めてアメリカ横断の旅に出るブッチ・キャシディとサンダンス・キッド。そしてBA‐SHOとSO‐RAもアメリカを旅し、「俳句鉄道888」で、失踪した叔父を探すドン・キホーテの姪と巡り合う。東京の空を飛ぶ「正義の味方」超人マン・タカハシは、ついにゴーストからの呼び出しを受ける…。隠されたゴーストの正体とは?時空を超え、夢と現を超え、疾走する冒険小説。

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初出メディア

週刊朝日

週刊朝日 1996年9月6日~1998年4月24日

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