書評

『”悪魔の医師”か”赤ひげ”か』(出版芸術社)

  • 2019/07/11
”悪魔の医師”か”赤ひげ”か / 池座 雅之
”悪魔の医師”か”赤ひげ”か
  • 著者:池座 雅之
  • 出版社:出版芸術社
  • 装丁:単行本(ソフトカバー)(240ページ)
  • 発売日:2019-05-20
  • ISBN:488293521X
内容紹介:
〝赤ひげ〟とも言われる名医が、なぜ〝悪魔の医師〟と呼ばれたのか。医学界、メディア、患者を巻き込んだ「抗えない大きな渦」とは?

命の問題がメディアに消費されてはならない

2006年、愛媛県宇和島市の万波(まんなみ)誠医師は、日本初の臓器売買事件に巻き込まれる。腎臓がんなどの病気が原因で摘出された腎臓を、病変部分を取り除くなどして修復し、腎不全を起こして人工透析などに頼っている患者に移植する「病気(修復)腎移植」。日本の医療では存在してはならないはずの医療行為は「人体実験」と呼ばれ、週刊誌では「腎臓ホリック 万波誠の“猟奇的犯行”」などと、日に日に過激に報じられていく。

その一方で、患者たちはこれらの報道を「患者を置き去りにした一方的な建前論と言わざるをえません」と署名活動を開始する。「人体実験」という強烈なキーワードが暴走し、バッシング対象として各方面のお墨付きが出た状態に、誹謗中傷が止まない。対立構造が強化され、正しいものと正しくないものを区分けし、後者を窒息させるかのような圧がかけられ続けた。

万波医師の口癖は「わしゃ、町医者だから、偉い大学の先生と違って、移植手術だけやっとるんじゃないんで」だった。この言葉には、謙遜も皮肉も自信も込められていたのか。組織の中で仕事をすることを望まず、目の前にいる患者を救うことを唯一の信条としていた。

結果、2018年に修復腎移植は、条件付きで先進医療として認められる。騒動から12年後のことだ。NHKのディレクターとして、事件を扱ったドキュメンタリー番組を作った著者は、「日本初の□△」と謳(うた)うような番組ほど、番組提案がとおりやすくなり、道を見誤りやすいと自戒する。

いずれかの立場を強め、書け、映せ、報じろ、という暴力的な要請が間違いを生む。ただ目の前にいる人を見つめた医師の存在が、メディアが抱える問題点を浮き彫りにしている。
”悪魔の医師”か”赤ひげ”か / 池座 雅之
”悪魔の医師”か”赤ひげ”か
  • 著者:池座 雅之
  • 出版社:出版芸術社
  • 装丁:単行本(ソフトカバー)(240ページ)
  • 発売日:2019-05-20
  • ISBN:488293521X
内容紹介:
〝赤ひげ〟とも言われる名医が、なぜ〝悪魔の医師〟と呼ばれたのか。医学界、メディア、患者を巻き込んだ「抗えない大きな渦」とは?

ALL REVIEWS経由で書籍を購入いただきますと、書評家に書籍購入価格の0.7~5.6%が還元されます。

初出メディア

サンデー毎日

サンデー毎日 2019年6月16日号

関連記事
武田 砂鉄の書評/解説/選評
ページトップへ