食の在り方を見直す
――出版のきっかけを教えてください。このシリーズは出版社の吉川弘文館から持ちかけられました。古い歴史を持つ、老舗の同社は歴史学や民俗学関係の本を出版していますが、以前に出された本で私は雑煮のことを書きました。それがきっかけとなり、編集者から「食文化のシリーズを出しませんか」と提案されました。
中山間地域は今、少子高齢化の影響が大きな課題となっていて、地域文化が将来にわたり持続できるのか、切実な問題となっています。コミュニティーが持続できなくなっているから、地域文化が持続できなくなっているのです。
こうしたローカリティー(地方性)を将来にわたり残していくことが課題の一つになっています。地域そのものが持っている文化を持続させていくことがポイントです。一つには無形の文化である、祭りや芸能が核となって、人と人とが結び付いています。
そして、祭りや芸能と並んで力となるのが「食」です。これらは各地域が外に向けて発信できるブランドだといえます。ローカリティーを持続させていく上で、「食」のあり方は重要な文化で、日本人が何をどのように食べてきたのかを、もう一度見直そうということでシリーズを始めることにしました。
――シリーズの構成を教えてください。
未来のことを考える時に、何が材料になるのか。それは、過去の人たちがどうやって生きてきたのかを学ぶ以外に方法がないのです。1巻の総論、「『食』の作法と知識」の中では、飢饉(ききん)に触れています。それは飢饉への記憶と対応があって、豊かな食文化が育まれたと考えられるからです。
シリーズは、最初は食材をテーマに構成を考えました。ですが、食に関する歴史と文化を考えるシリーズとしては、「食事と作法」という、総論的なことがどうしても必要だということになり、食事のあり方や作法など、「食」についての歴史や考え方をまとめて第1巻としました。シリーズを構想する時に、身近なことで、分かりやすいくくり方は何だろうかといろいろ考え、食材別にまとめることにして、適任な編者と執筆者に加わってもらい、練り直してこのような構成にしたのです。
――どんな人たちに読んでもらいたいですか。
研究者を意識するよりも、一般の人たちに日本の「食」についての「しきたり」や「技」などの歴史を分かってもらいたい。「食」は生きることの基本ですから、シリーズから自分たちの食文化を振り返ってもらいたい。農山漁村でいえば、今まで続けてきた当たり前の「自産自消」の「食」に、実は価値があることを分かってほしいのです。
[書き手] 小川 直之(おがわ なおゆき)1953年、神奈川県生まれ。現在、国学院大学文学部教授、博士(民俗学)。主要編著書『日本民俗 復刻版』(監修・解説、クレス出版、2017年)、『日本の歳時伝承』(角川ソフィア文庫、2018年)。『日本の食文化』は1巻「食事と作法」、2巻「米と餅」、3巻「麦・雑穀と芋」、4巻「魚と肉」、5巻「酒と調味料、保存食」、6巻「菓子と果物」。吉川弘文館・刊、各2700円。