前書き

『〈謀反〉の古代史: 平安朝の政治改革』(吉川弘文館)

  • 2019/12/24
〈謀反〉の古代史: 平安朝の政治改革 / 春名 宏昭
〈謀反〉の古代史: 平安朝の政治改革
  • 著者:春名 宏昭
  • 出版社:吉川弘文館
  • 装丁:単行本(198ページ)
  • 発売日:2019-08-19
  • ISBN-10:4642058877
  • ISBN-13:978-4642058872
内容紹介:
平安前期、充実した国政運営が進展する一方、承和の変をはじめ政変が頻発したのはなぜか。政治を動かす巨大エネルギーの実態に迫る。
政治家や官僚にまつわるニュースは、良きにつけ悪しきにつけ事欠かない。特に官僚は「大臣よりえらい高級官僚」などと揶揄されることもしばしば。
このような政治家と官僚の関係が、いまから約1100年もさかのぼる古代の時代に存在し、さらには当時の優秀な官僚による政治が、「天皇の皇位継承」にまで関与していたとしたら…。古代の<謀反>は起こるべくして起きたのだ!
大学で教鞭をとる春名宏昭氏は、このたび上梓した『<謀反>の古代史』の中で、奈良から平安時代にかけて、たびたび推進された政治改革とその反動として起こった政変に注目し、新たな歴史的視点を投げ掛けている。
本稿では、同書のまえがきを一部抜粋してお届けする。

古代の政変・謀反・クーデター

承和九年(八四二)、承和の変が起こった。後に詳しく述べることになるが、この政変は、仁明(にんみょう)天皇(嵯峨天皇皇子)の治世下に、皇太子恒貞(つねさだ)親王(淳和天皇皇子)の周辺の一部の官人たちが謀反を企(たくら)み、それが発覚して恒貞親王が廃されるとともに、太政官(だじょうかん)に列なる公卿(くぎょう)以下、淳和(じゅんな)天皇・恒貞親王に近しい官人たちが政界からほぼ一掃されたものである。つまり、一言で言えば、皇位継承をめぐる政変だったと言える。
ただし、政変の中心に仁明天皇と恒貞親王がいたかというと、少し違う。七世紀に起こった壬申(じんしん)の乱も大海人(おおあま)皇子(天智天皇弟、後の天武天皇)と大友(おおとも)皇子(天智天皇皇子、明治になって弘文天皇と追贈)との間の皇位継承をめぐる戦乱だったが、この戦乱の中心には大海人皇子の意志と大友皇子の意志が確実に存在した。
しかし、承和の変の場合は違う。仁明天皇は、自らの血脈が天皇家として残れなくてよいと思っていたわけではなかろうし、恒貞親王に譲位した後、自らの血脈が天皇家として残れるかどうか、不安がなかったと言えばうそになろう。しかし、だからといって、恒貞親王を皇太子の座から退け、皇子の道康(みちやす)親王(後の文徳天皇)に自らの天皇位を譲りたいとまで思っていたとは考えられない。
一方の恒貞親王は、淳和天皇の皇子、嵯峨(さが)天皇の外孫としてこの世に生を受け、兄恒世(つねよ)親王(嵯峨天皇同母妹の高志内親王の所生)の早逝後は淳和天皇の(正統の)後継に位置づけられ、淳和天皇から仁明天皇への譲位に際して皇太子に冊立(さくりつ)された身だった。近い将来の即位を寸分も疑うことはなかったろう。つまり、謀反を企てる必要など感じるはずのない状況にあった。
ではなぜ政変は起こったのか。結論を先に言えば、「良吏(りょうり)政治」が進展し、官僚たちのポテンシャルが全体的に上昇した結果、必然的に起きたのである。「吏」は官僚のことであり、「良い吏」とは有能な官僚のことである。つまり、「良吏政治」とは有能な官僚による国政運営のことである。
官僚たちのポテンシャルの上昇は、国家の発展、充実した国政運営に繋がるのではないのか。国家が発展して、なぜ政変が起こるのか。国家が低迷し袋小路に陥り政変が起こるのならばわかるが、発展というプラスの結果がなぜ政変というマイナスをもたらすのか。それに、承和の変は皇位継承をめぐる政変である。言うならば、天皇家内部の問題である。それがなぜ、官僚たちのあり方が変化することによって引き起こされるのか。あるいは、本書の「〈謀反〉の古代史」という題名に、なぜ「平安朝の政治改革」という副題が付いているのか。〈謀反〉と政治改革とはどこでどう結び付くのか。
読者の皆さんの頭の上にはクエスチョンマークがいくつも浮かんでいるものと思う。しかし、それが真実なのである。少なくとも、筆者はそう確信している。本書を通じて、皆さんのクエスチョンマークをひとつずつ消していきたいと思う。

[書き手] 春名 宏昭(はるな ひろあき・法政大学兼任講師)


〈謀反〉の古代史: 平安朝の政治改革 / 春名 宏昭
〈謀反〉の古代史: 平安朝の政治改革
  • 著者:春名 宏昭
  • 出版社:吉川弘文館
  • 装丁:単行本(198ページ)
  • 発売日:2019-08-19
  • ISBN-10:4642058877
  • ISBN-13:978-4642058872
内容紹介:
平安前期、充実した国政運営が進展する一方、承和の変をはじめ政変が頻発したのはなぜか。政治を動かす巨大エネルギーの実態に迫る。

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