ねじふせようとする力に“正攻法”で闘い続ける
大阪・谷六(たにろく)にある、わずか13坪の書店・隆祥館(りゅうしょうかん)書店。創業70年を迎えた「町の本屋」だ。地域に根ざした本屋が次々と潰れていく現状を「ネット書店や大型書店の便利さが勝つ」としたり顔で分析することは容易だ。だが、店主・二村(ふたむら)知子の訴えを聞けば、その分析の短絡さに気づく。書店の規模によって配本される本が決まり、売りたい本を並べることができない。たとえ日本一の初速で単行本を売ったとしても、文庫化された時の入荷はゼロ。意欲でも実績でもなく、規模で決まる。返品する際の条件も平等ではない。
そして、注文していないのに送られてくる「見計らい配本」が経営を苦しめる。「書店経営はただ右から左に売れば良いのではないはず。自分が売るものには責任を持ちたい」と述べた二村が、雑誌やウェブ記事で、この仕組みに疑問の声をあげた。
実は、本書の著者から「砂鉄くん、大阪に行った時には隆祥館に行くといいよ」と言われていた。今夏、初めて訪ねると、棚の隅々にまで意志が漲(みなぎ)っていた。今、この社会を生きることを問う本の並びに、“勝手に送られてくる”ヘイト本は交じり込んでいなかった。
レジ前で挨拶をすると、なぜか二村が涙を流し始めた。聞けば、二村の父であり創業者の善明が、自分がかつて働いていた河出書房新社の社長であった若森繁男と親しくしていたという。「町の本屋」に本が行き渡る仕組み作りに奔走した仲間だったのだ。若森は2014年に没したが、独立したいと申し出た自分の背中を、病床で力強く押し出してくれた人でもあった。
先日、二村が250回ほど続けてきたトークイベントに登壇した。本におびただしい付箋と書き込みがあり、鋭く問うてきた。闘う本屋に闘い方を学んだ。